石森章太郎『サイボーグ009 地下帝国ヨミ編』感想  




1.

多くの石森章太郎のSF作品に共通することは、
主人公が悲しみや不幸な運命を背負っているという点です。

仮面ライダー、キカイダー、ロボット刑事、ドッグワールド、

そしてこのサイボーグ009においてはそれが特に顕著です。
 この主人公たちは、なぜ自分がここに存在するのか、という出自に関して、それぞれの悩みを抱えています。仮面ライダーやサイボーグ009は、悪の組織によって改造されてしまい、後でその自らの生みの親ともいうべき組織を倒すべく立ち上がります。キカイダーは若干違いますが、良心回路を持っているがために、葛藤をかかえているという複雑な経緯を持っています。主人公たちは、本当は生身の人間として生きていきたいと思っています。半分以上機械の身体で、いわば殺人兵器として作り出された彼らは、自ら進んで殺人兵器でありたいと思っているわけではないのです。サイボーグとして誕生した彼らは、自分の出自に対する不安と、世の中が悪の組織によってめちゃめちゃにされるのを阻止するという使命と、両方持っていくのです。そうした石森作品と対照的なのは、ウルトラマンです。M78星雲から地球にやってきたお客様であるウルトラマンは、ウルトラマンであることそれ自体には何の迷いもありません。

2.
 さて、サイボーグ009です。ブラックゴーストは、国家相手に武器を売るという死の商人です。遂に生身の人間に機械を埋め込むというサイボーグの完成にいたります。その試作品として世界各国から9人が選ばれました。それが彼らゼロゼロナンバーサイボーグでした。(この選出が欧米中心であるというのは、 当時の時代背景からやむを得ないことなのかもしれません。)この作品の素晴らしい点は、このメンバーが非常に個性的だという点です。001 ロシア人の赤ちゃん、超能力者「イワン」002 アメリカ人「ジェット」、加速装置で大空を飛行可能003 フランス人「フランソワーズ」、遠視力などのレーダー004 ドイツ人「ハインリヒ」、全身武器005 アメリカ人「ジェロニモ」怪力006 中国人「張々湖」火炎放射で、地中にもぐることが出来る007 イギリス人「グレートブリテン」自由に変身可能008 ケニア人「ピュンマ」、水中を自在に泳ぐことが出来る009 日本人「島村ジョー」、加速装置および怪力。メンバーの中におじさんやあかちゃんが含まれているという点は重要です。多くの場面、コミュニケーションにおいて、006と007は重要な役割を持っています。彼らは名わき役です。彼らがいるからこそ、物語が豊かに成立していくのです。会話の一つひとつが人間的です。おそらく今、同じような作品を作るとすれば、若い美男美女だけで9人を構成すると思います。(現在のアニメ界はまさしくそのようなアイドル志向が強すぎるがゆえに、面白みに欠けるのです。)

3.
 さて、「地下帝国ヨミ編」です。話は、離れ離れになった9人が再び集まるというところから始まります。各人がそれぞれ平和に自分の生活を送っているにもかかわらず、再び闘いのために終結します。それまでとは、重みが違います。「ベトナムの戦争を終わらせるため」とか、「敵が追ってくるから」とか、そういう理由で戦うのではありません。最後の戦いになるかもしれない、遂に敵の司令・中心・ボスを倒す闘いになるぞ、それゆえ今回ばかりは、本当に死ぬかもしれない、という意味なのです。(ここに、この作品を終わりにしようという石森氏の意気込みを感じます。)一人ひとりの人生、その葛藤もよく描かれています。ブラックゴーストは、それまで隠れた存在でしたが、ここでは世界人類を支配、征服すると、正式に「公表」してしまいます。国家に武器を売って儲けるという本来の定義を捨ててしまうのです。(ここにも、この作品を終わりにしようという石森氏の意気込みを感じます。)サイボーグたちは、敵の本体を叩かなければならない、そんなふうに思ったはずです。物語の前半は、謎が謎を呼び、謎や陰謀に引き寄せられながら、再び力を合わせるという協力体制を組んでいくことになります。(バラバラな関係から一つにまとまっていくプロセスもよく描かれています!)謎の美女ヘレン、ビーナが登場します。(ただし、萌えの要素や性的なシーンはありません)その美女は敵か?味方か?三友工学という会社とは何か?超音波を発する怪獣とは?いくつかの謎の答えは、ヘレンたちの言う地下帝国にあるはず!そうこうしていると、ブラックゴースト、バン=ボグートという加速装置付きのサイボーグが襲ってきます。とても手強い相手です!もはや後にはひけません。サイボーグたちは最後の戦いに向かうのです。

4.
 さて、地下に向かう中で、サイボーグたちは、二手に分かれてしまいます。001、003、005、006、009、ヘレンたちは、恐竜によって催眠術にかけられてしまいます。002、004、007、008、博士、ビーナたちは、ブラックゴーストにつかまってしまいます。なんとか、004とビーナはそこから抜け出します。004は(そして読者は)ビーナから、真実を聞かされます。もともと地下帝国には、恐竜たち(ザッタン)が住んでいました。恐竜たちは不思議な催眠術を使って、地底人たちを支配していました。地底人は、恐竜たちの食用となるため、5人~7人の兄弟として生まれるようになっていました。(ヘレン、ビーナも、一卵性5生児)そこに、ブラックゴーストたちが入っていき、恐竜たちは追い出され、地底人は解放されたのです。恐竜たちは再び地下帝国を奪還するように、様子をうかがっていたのです。サイボーグたちは、恐竜たちに利用されながら、ブラックゴーストの罠に導かれながら、地下帝国の中心部、ブラックゴーストの本拠地へと導かれます。ヘレンやビーナたちは、サイボーグ009たちを地下へ誘い込む役目だったのですが、彼女たちはすでにブラックゴーストの恐ろしさに気づいていて、サイボーグ009たちの味方になろうとします。彼らが敵の本拠地に到達する過程で、そうした経緯が明らかになってくるのです。(謎が解けていく過程と、敵の本拠地に近づく過程とを 同時並行的に描いています)

5.
 催眠術にかけられた009は、すっかり恐竜たちの指示で動くようになっていました。そこで004との出会いです。009はすっかり催眠術で分からなくなってしまっていて、004に対して攻撃しようとします。(私のとても好きなシーンです!)004は、「おまえさんの、なかまだ」といって詰め寄るのですが、うまくいきません。009はこっちを攻撃しようとするのです。勿論、004は戦わずに逃げます。004とビーナの会話です。「009は弱さがあった、戦うあいてのことをかんがえすぎた。 だがいまはちがう。ためらわず 冷酷に あいてをたおすことだけをかんがえている。」催眠術をかけられた009はまるで冷血な殺人ロボットのようになっていたのです。(ここに009の個性が描かれています!)001によって催眠術が解けた際、本当の自分を取り戻した009は、圧倒的なスピードと技術で、ロボット軍団を次から次へと倒していきます。今度は仲間のために、戦うのです。004は、ビーナと二人で行動します。(このあたりの描き方も、よい。)生と死の境目にあって、相手の優しさに触れて、少しずつ、心を開いていくのです。ビーナのパニックぶり、動揺ぶりも、リアルに描かれています。お互いがひかれていくのは、十分に説得力あります。(最近のアニメは「美男美女が出会って一目ぼれ」みたいになっているからリアリティがないのです。)ビーナは、まさに処刑されようとするその瞬間に、震えながら、004の名前を教えてもらおうとします。これは勿論たんに名前を聞きたかったのではなく、意味としては好意を寄せているという「告白」です。こういうやりとりを見ると切なくなります。そして、またそのビーナも、死んでしまうのです。バン=ボグートは、ヘレンやビーナたちを裏切り者!といって殺してしまいます。004の悲しい記憶が再び蘇ってくる瞬間です。これは戦争と同じように、残酷な世界の話なのです。バン=ボグートは加速装置のついたサイボーグです。加速装置で飛び回り、激しく応戦する009とボグート。互角勝負か、あるいはボグートの方が上かもしれません。「そのやろうとの勝負は、おれにやらせてくれっ」と頼む004004には加速装置はありません。しかし004は、音の違いを聞き分けて、ボグートを撃つのです。速さを競いあいながら戦っている中で、静止している004が一撃で倒すというシーンは、めちゃくちゃカッコいい!

6.
 サイボーグ009たちが、ブラックゴーストの基地に潜入するころ、恐竜(ザッタン)たちもまた、総攻撃をかけてきます。ブラックゴーストは、戦車や戦闘機で応戦します。魔神像(巨大ロボット)の熱線によって恐竜たちは殲滅してしまいます。ブラックゴーストの総統スカールは、魔神像(巨大ロボット)に搭乗し、なんと地下帝国を水爆で破壊して、脱出しようとします。ここで登場するのはエスパーの001です。001は、全員を地上に瞬間移動させ、それと同時に009を魔神像ロボットの内部に移動させたのです。009は、気がつくとロボットの内部にいます。すぐに状況を把握します。009は、死ぬ覚悟を決めて魔神像ロボットを内部から破壊します。最後にブラックゴーストの正体を見てやろう。それは不気味な存在でした。すでに成層圏に達しています。ここは宇宙です。残されたサイボーグたちは海の上にいます。みんな助かったのです。009だけが宇宙にいます。002は、仲間を助けに向かうのです。間に合わないかもしれません。この002もカッコいいです。(ちなみにアニメ版の002は喋りすぎです。)魔神像を破壊した後、002は、飛ばされる009をとらえます。「ごらんよ009、宇宙の花火だ!ブラックゴーストのさいごだぜ!」しかしそこで力尽きてしまいます。大気圏突入。002と009は燃え尽きてしまいます。流れ星!名もない小さな民家のベランダで、姉と弟が流れ星を見つけます。姉が静かに「世界に戦争がなくなりますように」とお願いするシーンで終わります。

7.
 まさしく名作です。静と動、スピード感と重量感、人物の内面と壮大な世界、前半はサスペンス、後半は激しいアクション全てがうまく描かれています。しかも「世界平和」という根本的なテーマも、しっかり描かれています。この作品で009は最終回となるはずでした。しかしファンの要望か出版社の利益か、彼らは死んでないことになって、再び作品が継続してしまったのです。内容からいってサイボーグ009はここで終了しなければならないと思います。「ワタシモブラックゴーストの細胞ノヒトツニスギナイ」というのは、最終回をドキドキするために挿入された箇所であって、次回から別の細胞が登場するということを念頭に置いて書かれた箇所ではありません。その後多くのサイボーグ009が製作されましたが、どの作品も地下帝国ヨミ編を越えることはありませんでした。神々との戦いは、もうグダグダで、緊張感も何もありません。確かに9人の個性は健在なのですが、何か違うのです。会話がパターン化されているというか、予想できるというか、生き生きしていないのです。銀河英雄伝説なんかは、同じ作品とは思えないほどです。

8.
 さて、この作品の良さについて、です。作り手の立場として考えてみます。この作品では、キャラクターの魅力が十分に描かれています。最近の漫画やアニメは、やたら恋愛や友情を持ちこんだり、後から後からすんごい武器が追加されてきたり、キザなセリフを吐いたり、後から後から新キャラクターが登場したり、過去のキャラクターが応援に来たり、そんなのばかりです!それではカッコ良く見えてきません。しかしこの作品を読めば、本当の意味での「キャラクターの光らせ方」「個性の光り方」が見えてきます。それは主人公が、様々な理由で、ピンチの状況に置かれるということ、そしてそのピンチを、仲間との協力や工夫で乗り切るということです。サイボーグたちの武器は、最初に持ち合わせた改造特性とレーザーガンだけです。いよいよピンチになった時に、「実はこんな武器も持ってました!」みたいにはなりません。001は最後の最後で活躍することになっていますので、作品の中では殆どセリフがありません。重要なことは、キャラクターたちが、困惑し、動揺し、悩み、苦しむというようなことをもたらすための世界観をしっかり用意しておくということです。(勿論そこには、ふつうの人によるふつうの会話が必要です。)最近の漫画やアニメは、世界観の方がいいかげんなので、キャラクターたちが輝けないのです。その上で、キャラクターたちが輝くための理由を、圧倒的なパワーとか美男美女とか、キザなセリフやファッションに求めるのです。これでは、本当にカッコよく見えてきません。地下帝国ヨミ編は、とにかくスケールが大きいのです。スケールが大きいというのは、どういうことでしょうか?主人公たちの狭い人間関係の話から始まって、次から次へと新しい人物が登場していく。背景や原因に後から気付いていく。友人、謎、海、ロボット、愛、恐竜、地底、催眠術、戦車や戦闘機、戦争、魔神像、水爆、そして最後に宇宙。狭い視野から大きな視野。「スケールが大きい!」というのはそういうプロセスの中で読者が感じることなのです。出来るだけ前半で、一つひとつの会話をしっかり描いておき、それぞれの心の葛藤まで描いておき、そしてそのヒューマンドラマが、後半の大きな戦いによって振り回されたり、つぶされたりするということ。そうしたプロセスにおいて、読者は、大きいなあと感じるのです。最近のアニメや漫画は、スケールが大きいということを示すために、銀河とか宇宙とか、そういうのを出そうとします。しかも前半でそういうのを出します。そして後半になるにつれて、仲間関係のゴタゴタや、愛の告白になってきます。何のために戦っているのかを最後の最後で考えたり議論したりします。それではダメなのです!そういう考える部分は前半に持っていき、謎と葛藤でひっぱっておき、最後の最後は、気持ちが一つになって、激しいアクション!それでいいのです。それがスカッとするのです。私の感想が皆様にうまく伝わらないかもしれないのですが、サイボーグ009のこの地下帝国ヨミ編は、カッコ良い要素が十分に盛り込まれていて、とにかく素晴らしい出来なのです。若い人たちにも是非この感動作品を堪能して欲しいと思います。
(1966年作品)
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Posted on 2012/06/10 Sun. 21:48 [edit]

category: 漫画

thread: 漫画 - janre: アニメ・コミック

tb: 0   cm: 3

コメント

コメントありがとうございます。

この作品に限らず、石森章太郎氏の漫画の登場人物は、それぞれが難しい境遇に置かれています。人物が重いものを背負っているというところが、共感的ですね。コメントありがとうございます。

URL | ごんたろう #79D/WHSg
2012/11/06 06:22 | edit

サイボーグ009 と005

はじめまして。

009=島村ジョー。
彼は正確には日本人ではなく日本人と他国の人とのハーフとして生まれました(最近人でいえばメジャーリーガーのダルビッシュ有さん)。そのためいろいろな差別を受けて生きてきました(当時でいう「あばずれ」という表現)。

005=ジェロニモ・ジュニア(G・ジュニア)
彼もアメリカ人とはいえ002=ジェット・リンクとは違ってアメリカ先住民で就職するのに困って“黒い幽霊(ブラック・ゴースト)”の門をたたいていましたね。

そして、この「ヨミ篇」最後で002が「ジョー、君はどこへ落ちたい?」と云ったことがとても印象的でした。

URL | まっちゃ #79D/WHSg
2012/10/29 20:54 | edit

あばずれじゃなくて あいのこ でしょ

URL |  #-
2019/09/10 16:56 | edit

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