『かさ』感想  

(作・絵:太田 大八、文研出版、2005年)モノクロの中に少女の傘だけが赤色。それが意味するのは何か。少女は雨が好き。ぴちゃぴちゃした感触が好き。美しい傘が好き。そしてお父さんが好き。言葉はないのに、父親の優しい性格まで読み取れる。途中からその気持ちはケーキの喜びに移行する。幸せとは、半歩先にあって、まもなくその幸せがやってくるというその時間のことかもしれない。現代社会は便利さを追求するあまり、幸せが分からなくなっている。表紙に雨が描かれていないのはなぜか。おそらく表紙は写真のように一瞬を切り取った場面か。
 文章がありません。雨が降っています。真っ赤な傘をさしている、女の子が長靴を履いて歩いています。雨は線で描かれています。周囲の色は全て白黒です。灰色のじとーっとした風景の中に、女の子の赤い傘が目立ちます。女の子は、公園の横を通り、池の横を通り、近くの男の子と少し話をしたり、近くの散歩をしている犬と会ったり、ケーキ屋の前を通って、歩いていきます。季節は、おそらくは梅雨の時期です。おそらく、少しだけ、冷たい雨です。だんだんと都会の、車の多いあたりになってきます。信号を待ちます。駅に到着です。周囲の人々の傘は真っ黒で描かれています。女の子の傘だけが真っ赤です。雨が線で描かれています。女の子は、駅で待っているお父さんに傘を渡します。そして、お父さんと一緒に帰ります。ケーキ屋に寄ります。公園の前を歩いています。まもなく、おうちです。ここで絵本は終わります。
 さて、他の全てが白黒なのに対して、なぜ女の子の傘だけが赤いのでしょうか?おそらくは、雨を、喜んでいるということを示しているのだと思います。他の人々、サラリーマンも、散歩のお兄さんも、近所の子どもも、みんな、「雨かー いやだなー」と思っているのです。しかしこの女の子だけが、嬉しいのです。なぜでしょう。素敵な傘をさすことができるから、あるいは、このしっとりした世界観が好きだから、あるいは、傘の中は、雨が降っていないという不思議な感覚が味わえるから、あるいは、ピチピチちゃぷちゃぷという音が嬉しいのかもしれません。本当のところはわかりません。しかしこの女の子の雨を喜ぶ気持ちが、この赤い色の意味だと思います。
 最後に、ケーキを買った後のシーンでは、女の子は自分の赤い傘をたたみ、お父さんの傘の中に入ります。そしてケーキを大切そうに持っています。もう、この時には雨を喜ぶ気持ちが隠れ、ケーキを食べたいという気持ちが表に出てきているのだと思います。雨が降っているというだけで嬉しいという感覚は、もう大人にはありません。
 この絵本は、女の子がお父さんのために、お父さんをビックリさせるとか、お父さんに感謝するとか、そういうことを描いているのではありません。おそらくは、雨が降っていることを喜んでいる女の子。お母さんが「それじゃあ、せっかくだから」と言って、お迎えを頼んだのだと思います。家族愛云々ではなく、やはり中心的テーマは、雨と傘なのです。表紙には雨が降っていません。なぜでしょうか?私の推察ですが、この表紙は時間を止めた状態、いわば写真のような状態でしょう。絵本をめくると時間が進みます。それゆえ雨が降ってくるという動きになるわけです。表紙は表紙であるから、動きを削除したのだと思います。今はコンビニに行けば安い傘が売っています。突然の雨でも、そんなに困ることはありません。私たちは困るものを遠ざけ、必要なものを近づける。そんなことを目指してしまいます。しかし、自然の状態を素直に受け止めてみましょう。雨が降ることも、傘がないことも、それはそれとして受け入れてみましょう。世界が少しだけ変わるかもしれません。そんな絵本です。
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Posted on 2012/06/09 Sat. 17:26 [edit]

category:   2) 天気と私たち

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