ねえ、どれがいい?』感想  

(作・絵:ジョン・バーニンガム、訳:松川真弓、評論社、2010年)多くの選択肢が向けられる。家の周りが変わるとすれば、大水、大雪、ジャングル、どれがいい?象にお風呂の水を飲まれる、豚にズボンを履かれる、等、どれがいい? 奇想天外で笑える。本書はバカバカしい選択肢に優しい絵が付けられる。この雰囲気がいい。私達は選択肢を前にすると一つの決定を下す。おそらく決定の後に、様々な理由をこしらえていく。それゆえ中身のある人間になるためには、幾多の重大な場面で決定の機会を持つとよい。最後の問い「どこでなら迷子になってもいい?海の上、砂漠、森の中、ひとごみ。」ひとごみの迷子は最も怖い。
 「きみんちのまわりがかわるとしたら 大水と、大雪と、ジャングルと、 ねえ、どれがいい?」おそらくはどれも嫌なのです。「もしさ、ぞうに おふろの おゆを のまれちゃう たかに ごはんを 食べられちゃう、 ぶたに ずぼんを はかれちゃう、 かばに ふとんを とられちゃうとしたら、 ねえ、どれがいい?」おそらくは全部イヤなのです!「ジャムだらけになるのとさ、 水をかけられるのと 犬に 引っぱられて ドロンコになるのとさ、 どれが いい?」そんな全部イヤな例えが次から次へと描かれていきます。この絵本の魅力の一つは、全てイヤな例ばかりなのですが、その中では「どれがいい?」と問いかける点にあります。どれがいい?と質問されると、ドキっとします。質問に答えるというのは、相手とのコミュニケーションを成立させるということです。幼稚園の先生でしょうか。保護者でしょうか。相手の質問に対して子どもはなんとかして答えようとします。答えたいという気持ちがあるのです。ページを読んだら次のページ、という具合で進みません。
 ページについてあれこれ思案し、こっちかな?いやこっちかな?なんて考える時間があるのです。それも含めた絵本です。「決定する」ということは、自分の主体をかけるということです。子どもが「水をかけられるのがいい!」と答えたら、「え?なんでかな?」と問いかけてみましょう。「だって、ジャムだったらベトベトするし」という具合で答えを進めていきます。自分の頭の中がぎっしり詰まっていればいるほどに、様々な言葉が出てくるはずです。私という存在が先にあって、その私が決定する、というよりはむしろ、「決定」という行為が先にあって、その決定の主体である「存在」が確立していくのだと思います。最初は、かるい決定なのです。大きな意思や深い洞察もなく、決定してしまうのです。求められるから決定するのです。
 しかしそれはなぜか?どうしてか?等と問われるにつれて、自分の内側に複雑な蓄積が必要となってきます。たぶん。決定をしっかり、数多く行った人間は、自分の強固な存在感を持つのだと思います。私たち大人は、子どもの決定や判断に対して受身的でなければなりません。最終的な決定権を全て大人が持ってしまえば、子どもたちは生きている実感さえ得られないかもしれません。右にしようかな?でもそうすると先生が怒りそうだ、左にしようかな?でもそうすると先生が怒るかもしれない。そんなことで悩むのは健全ではありません。ある大人はこういうかもしれません。「決定する力がないのであるから、重要なことは大人が決定すべきだ」
 例えば、子どもに携帯電話を持たせる、子ども部屋を与える、お年玉の金額を使わせる、等親としては悩むことが多いと思います。大切なことは、大人にとってはどうでもよいようなこと、それは全て子どもに決定させるということです。そのためにどうでもよいよいな様々な仕事やイベントをどんどん与えるのです。さて。この絵本の最大の魅力は、これら選択肢が奇想天外で意外性をついているという点それにもかかわらず、絵によってちゃんと描いて見せているという点にあります。このバカバカしい選択肢を楽しめるようになれば、最高です。私たちは、何らかのことを決定しなければなりません。存在を確認しなければ生きていけません。しかし深刻な選択肢では窮屈です。
 この本のようなくだらない、バカバカしい、選択肢で楽しむことができれば、人生はどんどん豊かになっていくと思います。「絆」「つながり」「思いやり」「一つになる」震災以降そんな言葉が飛び交っていますが、バカバカしいことで大笑いするのが、最も大切ではないでしょうか?この絵本は、後半になるにつれて重いテーマを出してきます。「どこでなら まい子になっても いい? きりの中、 海の上、 さばく、 森の中、 人ごみ」前の4つの選択肢は、誰でもいいから助けを求めるということができますが、最後の「人ごみ」は、人間そのものを信用できない、心の底から来る怖さを含んでいます。大笑いして、読み進めるわけですが、最後の最後に、いくつかの大きな哲学的な問いをなげかけていきます。イギリスの風景にぴったりあった細い線で、読み手の心に強い風を送り込んでいる絵本です。
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Posted on 2012/05/01 Tue. 21:11 [edit]

category:   5) 人間とは何か

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

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