『せかいいち おおきな うち』感想  

(作・絵:レオ・レオニ、訳:谷川俊太郎、好学社、1969年)ちびのかたつむりは、大きなうちを手に入れる。角の飾りと派手な模様。どうだ!すごいだろう?しかしうちが大きすぎて移動できなくなる。ちいさいままであれば、どこへも行ける。この話は身の丈にあった生き方を奨励しているのではない。自分の姿が美しくなるか、美しい世界を旅できるか、どっちがよいかと問うている。自意識にとらわれると、人は自由な思考や変化を楽しめない。巨大な殻の中の彼は、自分は美しいと思い込んでいる。しかし周りはそうは思っていない。つまり自己満足なのだ。なんだかとてもむなしい。読み手の人生を揺さぶる名著だ。
 かたつむりが、たくさんいます。子どものかたつむりが、「ぼく おとなに なったら、せかいいち おおきな うちが ほしいな」とおとうさんに話しました。おとうさんは次のような話をして聞かせるのです。むかしむかし、あるちいさなかたつむりが、大きなうちが欲しいと願い、遂に、うちを大きくする方法を発見しました。うちはどんどん大きくなりました。ほかのかたつむりたちもビックリです。「たしかに きみの おうちは せかいいち だよ」ちょっと呆れ気味です。ちびのかたつむりは自慢気でした。角の形の飾りをつけて、派手な模様までつけてしまいました。
 そこに、かえるが通りかかり、「びっくりぎょうてんさ、ただのかたつむりのくせに、バースデーケーキみたいなうちにすんでるんだ」と目をまんまるにして言いました。ある日、かたつむりたちは、キャベツの葉を全部食べてしまい、別のキャベツに移動する日がきました。ちびのキャベツは重すぎて動けません。ひとりぼっちで食べ物のなく、やせ細って、最後には大きなうちだけ残して、消えてしまったのです。話が終わると、子どものかたつむりは、目に涙をいっぱいためていました。自分のうちのことを思い出し、「ちいさく しとこう。」「おとなになったら、すきな ところへ いけるように」と言いました。子どものかたつむりは、旅に出ます。「そよかぜに きのはは そよぎ じめんには すいしょうが あさひに かがやいて いた みずたまもようの きのこ…」(谷川俊太郎の美しい文章にも驚かされます)とても美しい世界を旅することができたのです。
 後半の、この美しい風景は、前半のキャベツだけのシンプルな風景とは対照的です。さて。私たちは、つい、自分を大きく見せようとします。本来のサイズの自分ではなく、もう一つ大きなものを加えて、トータルで自分を表現・演出します。それは他者から見ればとても窮屈で、愚かな姿に見えます。あんなものを。ちびのかたつむりは、自分のうちが小さい=惨めだ、かっこわるい、と思っていたのでしょう。どんどん自分を大きく見せようとするのです。人間は恋愛をすると、どうしても自分を大きく見せようとします。自慢話です。俺はこんなにすごいモノを持ってるんだぞ!俺はこんなに金を持ってるんだぞ!俺はこんなにすごい立派な家、立派な車を所有してるんだぞ!わたしたち人間は、多かれ少なかれそういう面を持っています。自分の武勇伝を熱く語ってしまうのです。自分には価値があるのだということを主張したいのです。高価なアクセサリーや派手な洋服を着る女性も、同じです。他の人から見るとそれはとても惨めです。「ちびのかたつむりが大きなうちに住んでいる」というふうに見えるからです。しょせんはちびであることには変わりがないのです。表紙と裏表紙には、ちびかたつむりの大きなおうちが描かれていますが、とてもアンバランスです。
 彼が大きく見せようとしているのは、自分のコンプレックスの反映なのです。一生懸命に大きく見せようとしているのは、それは自分の傷付いた心を癒すためなのです。それを見せられても、周りの者としては、「ほう、だからどうした」という程度のことでしか、ありません。あまりにも巨大な家に住んでしまい、動けなくて死んでしまう。それはまるで「多額の借金で身動きがとれなくなってしまっている姿」に似ています。見栄を張ると、見栄を張りつ続けなければならなくなります。自分へのこだわり、自分のコンプレックスに縛られる生き方、そこから解放され、あるいは忘れて、前向きに生きていくことが、もっとも「利口なこと」だと、この絵本は伝えていると思います。
スポンサーサイト



Posted on 2012/04/01 Sun. 17:35 [edit]

category:   1) 自己の誇示

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 1

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

 |  #
2016/02/24 09:41 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://kazeandsoraand.blog.fc2.com/tb.php/83-7b71fe56
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

カテゴリ

最新記事

最新コメント

お客様

検索フォーム

リンク


▲Page top