『ことば』感想  

(作・絵:五味太郎、架空社、1993年)人間の発する言葉を文字ではなく、吹き出しの色と形で表現する。子どもが三輪車に乗り、気持ちよく歌っている、そこへ他の子が来てストップをかける。言葉には気持ちを表現するだけでなく、相手を止めたり動かしたりする力もある。人は傷付けたり、泣いたり、怒ったりする。それが言葉として現れる。子どもたちが自慢話をする。話は膨らむ。そこに1人の子がラジコンを持参。みなが言葉を使わなくなってしまう瞬間だ。なるほど。言葉は目の前に存在しないものを表現することでこそ豊かに変化していく。実物はインパクトがあるが、言葉を貧相にする。
 「ことば」というタイトルの本でありながら、文字は使用されていません。人間の発することばを、文字として起こすのではなく、吹き出しの色と形で表現しているのです。吹き出し以外は全て白黒です。もう、この時点で名作絵本です。ことばとは何か?痛烈に問いかけてきます。子どもが三輪車で歌っています。歌ってるんだと思います。そこにはまるまるとした小さな吹き出しがポンポン出ています。そこへ別の子がやってきて「ストップ!」と言ったのだと思います。その子の言葉はまるで行く手を塞ぐように真っ赤な吹き出しが描かれています。冷静に考えれば不思議です。言葉って、自分の気持ちを表現したり、相手の行動を遠隔操作したりできるのです。そこにはたんなる文字だけでなく、色や音楽や、時には味や重さまでも含まれるのです。
 しばらくページを進めると、三輪車の男の子に向かって遠くから女の子が怖い顔をして、大きな吹き出しをぶつけています。 青い色の強力な吹き出しです。おそらく、冷たい悪口を言っているのでしょう。「あんたまだ三輪車なんかに乗ってるの?」等と言っているのかもしれません。男の子は大泣きし、(それも吹き出しの色で表現されています。)母親に慰められています。吹き出しは慰められているかのような形で男の子の頭にかぶさっています。しかしその後、母親から愚痴のようなイヤミのような、ことばを投げかけられます。男の子はヤケになって、観葉植物の鉢を蹴飛ばしてしまいます。そして母親に怒られます。そのような一連の物語が、色つきの吹き出しで描かれているのです。しばらくページを進めると、その男の子が友達と会います。友達は5人いて、「やあ」とか「あそぼう」等と声をかけているのでしょう。友達の口から出てきている吹き出しは、ウシ、ヤギ、カニ、ニワトリ、リス等です。これは何を意味しているのでしょうか?ひょっとしたら動物園に行ってきたという自慢話をしているのかもしれません。そこで子どもたちは何かを発見します。黒い物体です。黒い物体がひゅっと飛んでいます。その物体は見えません。子どもたちの口から言葉が出ています。「UFOだ!」「鳥だ!」「星だ!」「蝶だ!」「ロケットだ!」等と言っているのでしょう。吹き出しがそのような形をしています。しかしその物体は、ラジコンのヘリコプターだったのです。友達の女の子と、その兄らしき人物が立っています。彼らがラジコンヘリコプターを操作していたのです。女の子の口から小さい吹き出しが出ています。「すごいでしょ」と自慢しているのだと思います。
 このあたりは、とても重要なことを示唆しています。言葉は、想像したり、疑問に思ったりする時に、もっとも豊かなのです。実物を見せたり、実物で自分のことを伝えようとすると、言葉は、どんどん貧相になってしまう。謎についてあれこそ思いめぐらしている時は、人間の言葉は豊かになりますが、実物をぽんを出してそれで終わろうとすると、言葉は軽く無機質になってしまいます。私はこの絵本からそういう重いメッセージを受け取ります。哲学的で思索に富むような素晴らしい絵本です。
スポンサーサイト



Posted on 2012/01/22 Sun. 21:58 [edit]

category:   5) 人間とは何か

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://kazeandsoraand.blog.fc2.com/tb.php/65-a6e3c486
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

カテゴリ

最新記事

最新コメント

お客様

検索フォーム

リンク


▲Page top