佐野洋子『100万回生きたねこ』感想  

(作・絵:佐野 洋子、講談社、1977年)嫌悪感でいっぱいになる。愛すること、愛されること、相手のために自分をささげること、それが大切なことは分かる。しかし誰かを愛せなければ天国へいけないというのは、冷たい。生と死は運命であるが、恋愛は偶然であり、奇跡である。恋愛が成功する人もいるが、ごんたろうのようにうまくいかない人もいる。100万回の苦痛を味わえというのだろうか。恋愛が出来なくても天国へ連れていってほしい。恋愛が成功しなければ結婚すらできないという世の中の方がおかしい。白い猫が死んでおお泣きした後も、なお明るく生きて欲しい。
 100万回生きたねこの話です。ねこはある時は、王様のねこでした。また、ある時は、船のりのねこでした。ある時は、サーカスの手品師のねこでした。ねこは、誰か特定の人間に飼われている存在だったのです。ねこが死んだ時にはそれを飼っている人が泣いてくれました。同じようなことが100万回、続いたのです。次に生まれ変わった時には、野良猫でした。始めて、自分の身体を自分が所有するという状況になったのです。このねこは、自分が好きでした。「おれは100万回も死んだんだぜ」と自慢していたのです。そんなある日、白い美しいねこが現れました。白いねこは、一度も死んだことがありませんでした。しばらくするとねこは、この白い美しいねこが好きになり、一緒に住むようになり、子どもをもうけました。自分よりも、白いねこや子どものことが好きになりました。そして白いねこが死んだ時に、はじめてねこは泣きました。100万回、泣きました。(これまで自分のために泣いてくれた人のことを思い出したのでしょう)そしてねこは、死にました。もう2度と生き返りませんでした。この絵本をどのように解釈していいのか、私は戸惑っています。私は、どこに感動を向けてよいのか、よく分かりません。レビューを見ると「奥が深い」という感想をみかけますが、どういうふうに深いのでしょうか?どこで、泣いているのでしょうか?
解釈その1
 自分のことが大好きで、自分のことだけを考えている人間は、本当の感動はない。本当の意味で感動しなければ、天国に行けない。成仏できない。誰かのことが大好きで、誰かのことを感がている人間は、感動がある。本当に心から泣いた人間は、死んだ後に、天国へ行ける。という解釈も可能です。
解釈その2
 誰かの奴隷となり、誰かが自分の身体を所有しているときには、本当の感動はない。しかし自分自身の身体を所有するようになると、あらゆる経験は、自分自身のものとなり、本当の感動がある。という解釈も可能です。
解釈その3
 生まれては死に、生まれては死ぬ。そういうことを何度も繰り返しているということから、彼は、死ぬのが怖くなくなるはずです。(どうせまた生まれるしー)彼はおそらく全てのことが「どうせ」で片づけられるのだと思います。人生そのものに飽きてしまい、頑張ったとしても、頑張らなかったとしても、結局死んでまた甦る。そういう人生にとって、最大の苦痛は、何でしょうか?再び生まれてきてもなお、過去のことを記憶しているということ。最大の苦痛は、「記憶」です。このねこは、好きなねこが登場し、そのねこが死んでしまったことで、それまでの100万回の過去の記憶を忘れてしまうのです。この絵本の意味は、心から夢中になるという経験は、過去のことを忘却するという素晴らしい力がある。ということだと思います。そういう解釈であるならば、支持したいと思います。
解釈その4
 誰かを心から好きになってしまえば、真に生きることの重みを理解できる。相手が死んでもなお生きていくことはできない。恋愛によって、私たちの人生が豊かになる。「愛することの大切さ」という解釈も可能です。私は、この絵本が「解釈4」におけるとらえ方が、好きではありません。この絵本には、恋愛至上主義的な色彩が強いので、その点についていえば、極めて懐疑的です。一目ぼれで、そのイメージのために死んでいく。形而上学的な偶像のために死んでいく。一瞬が永遠になるということなのです。恋愛が出来なくても、あるいは恋愛に興味がなくても、そういう人生は「あり」だと思うのです。この絵本は、そういう人生を否定しているかのようなのです。恋愛は、ないよりはあった方がいいかもしれませんが、「無ければ生きている意味がない」というほどでもありません。人間はそんな動物ではないのです。生まれて死ぬというのは、全ての人間の運命ですが、恋愛は、そこまで拘束的なものではないと思うのです。子どもを産まなければ、生きていることは無駄だ、等ということは、やはりそれは間違っているのです。1回の恋愛を充実してもいいし、100万回の恋愛でも、0回の恋愛でも、そんなものは、運命ではないのです。だからこそ出会いが豊かになるのです。生と死は、運命ですが、恋愛は、偶然であり、奇跡なのです。解釈1のように、恋愛と道徳とを結びつけるとらえ方にも、懐疑的です。私がこの絵本で、特に懐疑的なのは、生と死という重いテーマと、恋愛という情熱的なテーマとを重ねてしまうという点にあります。
 それは、危険だと思うのです。危険というのは、心中や自殺のように、抽象的で情熱的なもののために命を落としてしまうということ。それを奨励してしまうからです。国家に忠誠を尽くし、国家への愛情を持って死んでいく。そういうことは、出来ることなら無い方がいいのです。絵本に即して言いましょう。ねこは、この美しい白いねこが死んだ後もなお、やはり「100万回も生きていればそういうこともあるさ」という前向きに生きて欲しいのです。あるいは、この100万回生きて死んだねこは、「次に生まれてきた時には、100万回生きていたという記憶を失っていました」という形になるのが最もまっすぐだと思います。
スポンサーサイト



Posted on 2011/12/24 Sat. 01:39 [edit]

category:   5) 恋愛とは何か

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 4

コメント

コメントありがとうございます。

ベラスケスさん。コメント感謝します。ベラスケスさんのとらえ方は、ごんたろうが解釈1と呼んだものに近いのですが、それ以上の観点も含まれているようにも思えます。ベラスケスさんの文章を読んでいると、これは女性への愛に限定せずに、例えば友人や家族などにも応用できるような話だったのかなと思えてきました。今後もコメントいただけると嬉しいです。頑張ってブログ続けます。ありがとうございました。

URL | ごんたろう #79D/WHSg
2013/04/21 23:26 | edit

命と愛

100万回、誰かの飼い猫として生きてきたねこ。

野良猫に生まれた時の彼は、その経験を自負する、やや未熟な自己愛に満ちていた。



やがて、まだ一度も死んだことのない、白いねこに出会い、恋をして、愛の結晶に恵まれる。

彼の自己愛は、これらの過程を経て、成熟していく。

俺様ねこから脱却し、愛し護るファミリーと共に生きる喜びを実感出来るようになった。

やがて、最愛のパートナーが亡くなる。
この時に初めて、悲しむという感情を覚える。
愛を知った時、悲しみも共に背負わなくてはならなくなる。

愛し合い、命を育み、やがて死んでいく。

愛を受けるだけでは、喜びも悲しみも、希薄に感じるが、自分以外の誰かの幸せを願い、愛を与えることで、慈悲、慈愛のこころに目覚めた。

100万回誰かに飼いならされても、たった一度の愛には到底及ばない。

そして自分も死んでいく。

恋愛というと、享楽的な側面にばかり着目しがちですが、本来は、命を受け継ぐための第一歩なのだと思います。







URL | ベラスケス #79D/WHSg
2013/04/20 16:43 | edit

この話について。
ただ猫は100万回生き死にを繰り返すことでも、何も感じない。
ただ、孤独のみを信じていたのではないでしょうか?
自分が世界の中心である。だから悲しみもない。

それが、白い猫との出会いによって、変わってしまっただけの話。
世界の中心が自分から他者に変わった。
この話の根っこの部分は、猫の価値観の移り変わりで、百万回生きたという、フレーズはただのこけおどし。比喩だと思っています。

URL |  #-
2016/10/24 13:34 | edit

コメントありがとうございます。

う~ん。いまだにこの本の趣旨が理解できていません。
自分が世界の中心だという場合には、悲しみが無く、白い猫を世界の中心だと思った場合には悲しみがある。
ということについて、よく理解できませんでした。
自己中心的な人には喜びがなく、愛する人と喜びを共有する、というのであればまだ分かりそうな気がするのですが・・・
自己中心的な人ほど、よく泣いているような気もしますが・・・
100万回というのが比喩だというのは分かります。
深い悲しみがなければ死んでも生き返る、深い悲しみがあれば死んでも生き返らない。
ということについても、なぜこの比喩を選んだのか、いまいちピンときません。
この比喩について、みなさんは「あ、わかる、わかる」というふうに受け止めてらっしゃるのでしょうか。
どちらかといえば、人を愛する時には死ぬのが怖くない、愛せない人は死ぬのが怖くてしょうがない、
というような話ならば分かるような気もするのですが。
大人気の絵本ですから、私が理解不足ということなのでしょうかね。う~ん。

コメント感謝します。ごんたろう

URL | いもむしごんたろう #-
2016/10/28 22:25 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://kazeandsoraand.blog.fc2.com/tb.php/47-76ddb99a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

カテゴリ

最新記事

最新コメント

お客様

検索フォーム

リンク


▲Page top