『こぶじいさま』感想  

(作:松居 直、絵:赤羽末吉、福音館書店、1980年)鬼とは怖い存在だ。ただし無邪気で気分屋なところもある。山中で夜を明かすことになったじいさまは、鬼たちの踊りを前に、つい自分も踊り出てしまう。じいさまと鬼は、自己利益ではなく、楽しいかどうかを最優先にする。鬼は、明日も来いという意味でその大きなこぶを取り上げた。それを聞いた二人目のじいさまが、自分もこぶをとってもらおうと山中へ向かう。二人目のじいさまはこぶが邪魔。鬼は怖くない。「こぶとり」のために鬼を利用しようとする。近代的な合理主義者だ。彼は踊りが下手というだけでなく、踊りを楽しめない。鬼に嫌われたのだ。
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 額に大きな瘤(こぶ)のあるじいさまは、木を切りに山へ入ります。奥へ奥へと入ってしまい、気が付くと真っ暗になってしまいました。帰ることができません。じいさまは、仕方なく、山の神様のお堂で寝ることにしました。すると、夜中に鬼がやってきて、歌を歌い、踊りを踊っていたのです。あまりにもおもしろくなって、じいさまは、じっとしていられずに、お堂を飛び出して、一緒に踊ってしまったのです。朝になり、鬼たちは慌てて帰ろうとしました。鬼はじいさまに向かって、「たいそう、おもしろかった。あしたのばんも こいや。 それまで、おまえの ひたいの こぶを、あずかっておく」といってこぶを取ってしまったのです。じいさまは、急に身軽になった気持ちで家に帰りました。そしてその話をきいた隣のじいさまは、自分も大きな瘤(こぶ)を取ってもらおうと思い、山へ登りました。そしてお堂に泊まり、夜中に、鬼たちが登場しました。じいさまは、一生懸命に歌って踊ろうとしたのですが、うまくいきません。続きも知りません。怒った鬼は、昨晩取り上げた瘤をそのじいさまにくっつけて、「はやく かえれっ」といったのです。じいさまは二つくっつけて、村へ逃げ帰りました。それっきり、これっきり、おしまい。
 さて、ごんたろうは、基本的には「鬼」は「鬼」だと思います。残酷で、身勝手で、とても恐ろしい存在です。暗闇で生活する、とても怖い存在です。鬼の中に、無邪気でかわいいところがある。ということは言えると思うのですが、かといって人間と同じではありません。凶暴で残酷だというのが8~9割なのです。この物語では、いかにも「優しい人」という印象を受けるかもしれませんが、彼らは決してじいさまのことを考えて、思いやりで瘤をとったのではありません。思いつき、なのです。
 ところで、じいさまは、恐怖心いっぱいだったはずなのですが、なぜか歌と踊りを見て、飛び出したのです。それはなぜでしょうか?鬼なのですが、歌と踊りを見ていると、とても鬼には見えなかった。普通の楽しい人間に見えてきた。ですから、じいさまは、心を開いて飛び出したのです。基本的には仲よくなれましたという話ではなく、恐怖心をいっぱいに感じている中で、つい自分を見失ってしまった。そんな話だと思います。2番目のじいさまは、どうでしょうか?彼は、こぶをとってもらいたいという願望があり、その目的のために鬼を利用しようとしているのです。相手を、自分の目的のための道具としてとらえているのです。彼は、合理主義的です。ひょっとしたら彼は、鬼を恐れていないのかもしれません。こぶが邪魔。鬼がこぶを取ってくれる。鬼にこぶを取ってもらおう。という、判断です。必要なことを行う。私たちも、よくするような判断なのです。病気は病院で治療する。そんな判断です。噂話を聞き、「やった!いい情報をGETしたゾ!」ととらえて、その情報を活用する。必要な情報にもとづいて、必要な行動をする。文脈や感情は極力排除する。特に本書では、2番目のじいさまというよりは、その妻であるばあさまの方が、いっそう合理主義である。
 鬼が、2番目のじいさまを気にいらなかったのは、なぜか?歌の続きをしらない、踊りをしらない、ということもありますが、2番目のじいさまは、心から楽しんでいないのです。それは面白くありません。鬼は、合理主義の正反対です。気にれば喜ぶ、気に入らなければ殺してしまう、そんなメンタリティを持っていると思う。瘤を与えたのも、それで彼が困るだろうとか、彼が喜ぶだろうといった深い考えがあるわけではなく、たまたま手に持っていたから、「ほれ」といってくっつけた。そんな感覚です。最初のじいさまは、2番目のじいさまとは大きく異なります。「たからこぶだ」と言い、決してこぶに不満があるわけではありませんでした。すなわち自分にふりかかる周囲の状況を、そのまま享受する。この生き方とは、あれこれ文句をつけないということです。生活が苦しい、病気がある、そんなことでイライラしたり、怒ったりしません。それはそれとして受け止める。そんな感覚です。合理主義の反対です。その場の雰囲気に流されてしまう。あるいは、楽しいことは共有したいという感覚。利益か不利益かという観点ではなく、楽しいか、悲しいかという観点。この感情的な生き方が、めぐりめぐって自分の身体を助け、自分自身に莫大な利益を与えてくれる。芸は身を助ける。そんな姿を、本書は描いているように思えます。
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Posted on 2014/12/11 Thu. 21:34 [edit]

category:   1) 自己の誇示

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