『ふしぎなナイフ』感想  

(作:中村牧江、林健造、絵:福田隆義、福音館書店、1997年)固くて冷たいはずのナイフが、様々な形へ変わる。まがる、ねじれる、おれる、われる、とける、きれる、等。誰かが動詞一覧表を読みあげているようだ。言葉がナイフを誘導している。どんな音がするかを想像しよう。これぞファンタジー。生命の躍動だ。どんなに変化しても、驚異の回復力で、再びもとに戻る。後半になると、のびて、ちぢんで、ふくらんで、等となる。観衆はどんな声をあげるか。うぉおっ、わあーっ、すげえ、等。その反応まで想像すれば、ぐっと世界が広がる。最後の頁は、言葉がない。どの動詞が入るかな?ナイフが言葉を追い越した。
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 「そんな馬鹿な!」などといわずに、この絵本の世界に「どん」と入ってみましょう。表紙に描かれている立派なナイフステーキとか、ハンバーグなどを食べるナイフです。ページをめくると、固いと思っていたナイフが、軟らかかった。「ふしぎなナイフが まがる」ぐ に ゃ。「ねじれる」ぐ にゃ ぐ にゃ「おれる」パキン「われる」パリン「とける」どろどろ「ふしぎなナイフが きれる」シャキシャキシャキシャキ「ほどける」しゅるるるるるる後半です。「ふしぎなナイフが のびて」びろーーーーん「ちぢんで」ぐにゅううううう「ふくらんで」ふわあああああああ最後のページでは、パリンと割れていますが、「われた」とは書かれていません。
 さて、いろいろと気づくことがあります。表紙と裏表紙には木目調のテーブルが描かれています。しかし本書の中には描かれていません。読者は、中で起こる全てのことが木目調のテーブルの上での出来事だとうけとめます。どんどん変化を続けていきますが、壊れたり、歪んだりした後に、再び最初のナイフの状態に戻るという、その驚異的な回復力?に気づく人もいるかもしれません。ひょっとしたらこのナイフは、「こんなふうに生きてみろ」と私たちに真の強さを見せつけているのかもしれません。前半と後半に分かれますが、前半で二つの文章、後半で一つの文章が記載されています。「ふしぎなナイフが」の部分はそのままですが、その次の部分では、黄色とピンクで文字が囲われています。
 文字は、「われる」「とける」「ほどける」とありますが、そこでどんな音が聞こえるかについては描かれていません。親子で読みながら、音を楽しむ。パリンなのか、バキッなのか、チャリッなのか、人によって変わるかもしれません。しかし見た目のその映像に音をつけるというのは、とても創造的な作業になると思います。またその音つけがうまくできるようなリアル感のある絵です。黄色とピンクの囲みは、どういう意味があるでしょうか?おそらく、その囲みの部分を、親子で一緒に音読する。その後、パリンやガキンなどの音を表現する。そういう形の楽しみ方を表現していると思います。
 おそらく、前半の黄色の囲みは、起承転結の「承」の部分です。音を楽しみながらページをめくります。後半のピンクの囲みは、どうでしょう。もはやこのナイフは、自由に変化することが分かっているのです。そのナイフが、こんどはどんな予想を超えた動きをするか、ドキドキしながら楽しむのが、後半です。ピンクで色づけすることで緊張感を表現しているのだと思います。最後のページで文字が描かれていないのはなぜでしょうか?これは、おそらく、「今まで使ってきた文字のどれがここに入るかな?」という問いかけです。子どもは「あ、分かった、われる、だよね」親子で一緒に大きな声でパリンと発する。そんな場面だと思います。すなわち、この絵本は、たんに自由自在に変貌するナイフというだけでなく、それを読み楽しむ親子の姿を含めて作られているように思います。
 さて、私たちは一般的に「ナイフはこういうものだ」という認識を持って生活しています。まがるはずのないものが、まがる。衝撃です。まるで手品です。この絵本で描かれているようなシーンは、いわば、私たちの生活を転倒させ、困惑させるような刺激なのです。子どもは最初はナイフを見てビックリすると思う。ちょっと危険で、野性的?で、お医者さんみたいで、ちょっとカッコいい!しかし何度か使用すると、慣れてしまいます。私たちは、昨日経験したことを、明日にも応用します。驚いたり、考えたりすることを止めてしまう。輝きを持っていた本来の衝撃は薄れてしまい、慣れ親しんだ世界を繰り返し、上書きするような生活に戻っていきます。私たちは新しいものへの挑戦を忘れ、過去を反復するようになります。私たちは過去の記憶に縛られて生きている。という議論を展開したのは、ベルグソンです。
 この絵本は、過去の常識を破壊し、新しい変化を楽しむように求めているかのようです。おそらく幼稚園などで子どもたちを前にして読み進めれば、子どもたちは大爆笑です。本来、変化は、生命の躍動であり、感動であり、笑いなのです。その感覚を、大人は忘れてしまっている。もう一度、思い出しましょう。この絵本をみんなで見て、大笑いしましょう。ファンタジーとは、私たちの一般的な常識や認識を取り出し、それを大きく加工したり膨らませたりしながら、さらに私たちのこれまでの見方や考え方にまで変革を求める。そういうものこそ、ファンタジーだと思います。本書は、最も基本的なファンタジーだと思います。
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Posted on 2014/11/22 Sat. 19:21 [edit]

category:   3) 認識を覆す

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