『はるにれ』感想  

(作・絵:姉崎一馬、福音館書店、1981年)北海道豊頃町にある樹齢140年のニレの大木。実は二本らしい。農場に立ち自然とともに撮るカットと自然に立ち農場とともに撮るカットがある。秋から冬になり、冬眠を迎える。心配する写真家に「もっと近くで撮ってくれ」などと語っているかのようだ。春にになり、元気よく登場する。彼らは月とも仲良し、たくさんの草達にも囲まれる。寂しくはない。私たち人間は、日々のことがらで悩んだり、悲しんだり、喜んだりする。ゆったりと生きるニレの大木に語りかけよう。おそらく彼らは私たちを優しく包み込んでくれる。本書は絵本だ。写真集ではない。
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 北海道豊頃町にある樹齢140年の大木です。140年前といえば、1870年頃、明治維新を終えたばかりの頃です。そう思えば、このニレの木は、日本の近代以降の変化を見つめているということでしょうか。二本が寄り添って一本のように見えるそうです。写真集ではありません。絵本なのです。これを絵本だと言うのですから、意味があるはずです。1ページ目と2ページ目では、立っている位置が異なります。AポイントとBポイントというふうに分けてみましょう。Aポイントというのは、後ろに山があり、自然とともにお出迎えしてくれているような場面、Bポイントというのは、遠くに人々のすむ場所があり、自然の側に立って、近くの農家の人々と一緒にいる姿をとっています。
 しばらくここに滞在した後、そろそろ帰るかというような場面でしょう。1ページ目は、おそらく夕日です。A地点です。一日かけ、はるばる訪れたカメラマンを、ニレの木(はるにれ)が、お出迎えです。「ようこそ、北海道の大自然へ」と言っているかのようです。その日は、近くに宿泊しました。次の日の朝、はやくにカメラを持って、向かいます。朝の姿、それが2ページ目です。B地点です。朝もや。それから数週間たち。葉は全て落ちてしまいました。3ページ目は、雪が降り始めたところ。4ページ目は、だいぶ積もったところです。カメラマンは、「あらあら、大丈夫ですか」と問う。冷たい風を受け、じっと耐えている。深い深い冬眠の状態です。5ページ目。日が落ちる時の姿です。B地点です。青白い光が、少し不気味です。6ページ目。朝です!
 B地点です。7ページ目。そこから1時間たったところです。太陽はゆっくりと、低い状態で移動します。冬ですから、とても低いのです。8ページ目。もう少し時間がたった時の、A地点です。殆どの枝に霜が降りているようです。真っ白です。ニレの木が語りかけているようです。「まるで白い葉が開いているようでしょ?」既に長い冬眠に入ったと思っていたので、カメラマンはビックリです。「あれ?眠っていたんじゃないの?」ニレの木は、小声でささやいています。「もっと、よく見てよ」「はいはい」それが9ページ目です。それから数か月たちました。少しずつ温かくなってきました。10ページ目。再び朝です。B地点です。深い霧です。11ページ目。日が昇っているはずですが、まだ霧が残っています。ニレの木の姿が見えません。ニレの木は、まるでかくれんぼでもしているようです。大地の草たちも、少しずつ大きくなってきています。12ページ目。やっと、霧が晴れて、大きな姿が登場です。「じゃじゃじゃーん」とても元気そうです。とても大きな声で、「がーーーーーっ はっ はっ!」と笑っています。少しずつ葉をつけてきました。「今日はいい天気だよねえ」とニレの木は、笑っています。13ページ目。夜です。月がぽっかり浮かんでいます。カメラマンもお休みです。安心です。暗闇ですが、決して寂しくありません。月とどんなお話をしているのでしょうか。それから数か月後。カメラマンの前に、巨大な大木。無数の葉をつけています。それが14ページ目です。風が吹くと、ざわざわと音をたてます。「うんーーーーっ 気持ちいいねええ」15ページ目。「びっくりした?」お日様の光を浴びて、とても気持ちよさそうです!「2人だけで、寂しくないかい?」とカメラマンが問う。ニレの木は、「ごじょうだんを! たくさん仲間がいるからねー」と答える。それが16ページ目です。カメラマンが去ろうとする姿を遠くから眺め「また、こいよ~」なんて言っているようです。
 不思議です。ニレの木は直接的には何も語っていません。しかし明らかにメッセージを発しています。本書は、写真集ではなく、絵本なのです。ということは、当然何かの物語が描かれているはずなのです。ごんたろうが読み取ったような物語であるかどうかは分かりませんが、少なくとも作者は、物語を見出し、それを表現しようとしているはずです。読者は言葉を追加し、じっくり眺めながらその音を感じ、静かに心を共鳴させるように読むことができます。風が吹くと揺れ、秋になると葉を落とす。長くて、寒い冬。そしてゆっくり訪れる春。巨大な大木は、そこにデンと立っている。私たちが悲しい気持ちで大木を眺めれば、優しくささやいているように見える。私たちが楽しい気持ちで眺めれば、大きな声で笑っているように見える。学校のことや、仕事のこと、家庭のことや、友人のこと、様々な思いに疲れたならば、おそらく大木は、優しく包み込んでくれるはずです。二本の木が寄り添って一本に見えるということを思いながらこのニレの木を眺めれば、二人の会話のように聞こえるかもしれません。
 勿論、はるにれだけが特別ではありません。家の近くの大木だって、小川だって、家の裏の山だってそうです。彼らは100年とか1000年といった時間を生きているわけで、人間のような忙しい時間を過ごしているわけではありません。では共有するものがないかといえば、そんなことはないのです。何かの思いを伝えれば、何かが必ず帰ってくる。彼はどんな気持ちなのかなと問いかけ、その対象に心を寄せることが大切です。私たちはとても忙しく、人々の会話につかれてしまう。しかし本来は自然との会話がまず第一に必要なのです。そんなことを想起させてくれる、名作絵本です。ただ、難点が一つだけ。右頁と左頁の中央のラインと、ニレの木が重なってしまって、見えにくい。これはおそらく作者も気づいているはずです。出版事情などとの関係から、やむをえずにこうしたのだと思いますが、「上にめくるようにする」とか、なんとかならなかったものでしょうか。
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Posted on 2014/11/08 Sat. 20:52 [edit]

category:   1) 季節の変化

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