矢野顕子「赤いクーペ」感想  

 美しい響きの曲です。とても悲しい曲です。一見すると素敵な女性と二人で幸せなドライブ、というふうに解釈したいところですが。最後の最後で「悲しみは走り続ける」と出てきます。曲調からいっても、悲しい曲です。
 火の山ということは、ごんたろうは火の国熊本県の雄大な大自然「阿蘇」をイメージします。モーツアルトというと、似たような曲の流れが繰り返し、繰り返し流れるイメージがあります。モーツアルトの曲が流れるのではなく、モーツアルトが歌ってくれるのです。たんなる曲の響きというものではなく、人格者としての存在です。何かを語りかけているかのようです。モーツアルトが何かを語りかける。聞き手が反応するかのように。「サンルーフを開けて」これは一体、どういう意味でしょうか?君だけを乗せるということとサンルーフを開けるということは、異なる二つの事象というふうにとらえるのが自然かもしれません。しかしここは、そういう意味を持たせつつも、サンルーフから君が乗り込んでくるという意味をも、持たせているのだと思います。サンルーフ?!私の解釈です。この女性は、もう既に亡くなっているのです。天国から、やってきたのです。阿蘇といえば、九州では最も高い場所にあります。「どこまでも走ってゆきたい」というのは、景色の良い風景を走っていて、とても気持ちいいということだと思います。

 思い出がよみがえってくる。「地図を破り捨てる」とはどういう意味でしょう。「地図を見ない」のではありません。地図=これから進む道=未来、未来を捨てる。地図を捨てることと君だけを乗せるということは、二つの異なる事象のようにとらえることもできますが、ここでは、未来を捨てて、既に死んでいるその女性の魂を乗せていく、というふうに解釈できます。この世界が終わるまで走る。そう。おそらくこれは、「自殺する」ということだと思います。「いつまでも走ってゆきたい」いつまでも走ってゆきたいのだけれども・・・「それは出来ない」というニュアンスです。自殺するしかない。どんな事情があったのでしょうか。女性がいなくなって、生きる自信を失ったのか。あるいはもう高齢で病気なのか。仕事がうまくいかずに?そのあたりは分かりません。

 フロントグラス?フロントガラスではありません。最初、私は、これをたんなるキザなのだと思っていましたが、曲の流れからいってそれは違います。フロントガラスが透き通るのは当たり前のことです。「その先を誰も知らない」ということですから、もっと深い意味があるはずです。グラス=コップ、車の前方(フロント)に、グラスが置いてある。運転手席の前です!それが透き通る=飲み干して空になったということだと思います! アルコールです。そんなことは書けないから、わざわざフロントガラスと重ねて表現しているのです。お酒を飲んで、車を飛ばしているのです。その姿を想像して下さい。その先は、もう崖から転落するとか、山の斜面に激突とか、そういうのしかありません。もう。自殺するつもりです!この命が終わるまで走り続ける。ひたすら走っていくということだけを考えています。ぼーっとしてきました。

 赤い → 血の色?「止まれない」と「もう止まらない」の箇所はとても重要です。「止まれない」というのは、どういう状況でしょうか。それは、走り続けるということです。緩やかなカーブであっても、ちゃんとハンドルを動かしているということです。死にたい。もう生きてられない。でも。アルコールを飲んで、音楽テープも終わってしまって、それでも死ねない。どのカーブであっても、ハンドルが自然とまわる。悲しみで走り続ける。しかし、幸せな思い出がよみがえり、死ねない。「もう止まらない」というのはどういう意味でしょうか?そこには明らかな意思が入ります。私は止まらない、というニュアンスが入ります。自殺するのをやめたのです。悲しみは走り続ける。幸せを連れて。なんという詩でしょう。悲しい気持ちで走っているのですが、その裏側に幸せがべたっとくっついていることに気づくのです。そんな歌だと思います。
 作詞は、谷川俊太郎です。作曲は、小室等。もとは小室等の曲なのですが、矢野顕子がそれを美しいピアノの曲に仕上げています。主人公は男性なので、小室等の曲の方がよりイメージに近いと思いますが、矢野顕子独特の世界観の中に収められることで、いっそう輝きを持っているように思います。特にピアノの流れは、悲しい表情になったり、ふと明るい雰囲気になったり、再び悲しみに包まれたりと、微妙な心の変化が描かれていて、そのたびに心が揺れます。今の若いアイドルは、こういう歌を歌ったらいい。聞いた人は歌詞をじっくり噛みしめると思う。(作詞:谷川俊太郎、作曲:小室等 小室等『時間のパスポート』1996年 矢野顕子『Home Girl Journey』2013年、所収)
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Posted on 2014/06/21 Sat. 20:05 [edit]

category: 音楽

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