『みさき』感想  

(作:内田麟太郎、絵:沢田としき、佼成出版社、2009年)夏の風景が美しい。汽船の音を聞き、岬を目指して走る少年。突然のスコール。灯台のある岬についた時には、遅かった。落胆して帰る姿が表紙の表情である。説明は全くない。まるで映画のワンシーンだ。少年はなぜ走るのか。誰が汽船に乗っているか。親友か。先生か。そこまで求めていながら、なぜスコールで立ち止まるのか。なぜぬいぐるみは、初めて海を見るのか。読者は何を思うか。解釈は自由だ。私の推察は、少年の初恋の話。都会の雰囲気を背負う少し年上の女性が、島から去って行く時の汽船だと推察する。名前はみさき。そんな雰囲気を感じる。
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 「素晴らしい!」の一言につきます。まるで映画のような絵本です。ある港町。家の近くの狭い路地で時間をつぶしていた少年が(8才~9才くらいでしょうか。)・・・突然、走り出す。「きせんが くる…」途中で、落ちている恐竜らしき「ぬいぐるみ」を見つけるのですが、そのまま走り出す。すると突然の大雨。南国らしいスコールです。いったん少年は、ぬいぐるみのところに戻り、ぬいぐるみを拾い上げ、バス停で少し雨宿りをします。「もう いってしまったかな」そして岬に到達。「…まにあわなかった」しばし呆然と海を見つめる少年。汽船の音は聞こえてきません。静かな波の音が聞こえてきます。少年はぬいぐるみを抱きかかえて、「うみだよ」と声をかけるのです。表紙の絵は、おそらくその帰り道の、落胆した表情だと思います。ひまわり、美しい蝶々、夏らしい草木、夏の青空が、とても印象的です。さて。まず、この絵本では断片的なシーンだけが描かれていますので、前後の状況や人間関係などは一切描かれていません。それゆえ、その背景の部分は読者の想像に委ねられることになります。あとがきなどもなく、読み終えた後の心地よさは、とても深いものがあります。様々な解釈が可能になるという点からも、素晴らしい絵本だと思います。みなさんはどう解釈しますか。以下は、ごんたろうの推察です。
 おそらく、少年がいるこの港町、ひょっとしたら沖縄や鹿児島あたりの離島かもしれません。離島ということにしましょう。時期は夏休み。遠くから、親戚が遊びにきたのです。おそらく。・・・ごんたろうは、これは女の子ではないかと思うのです。おそらくは親戚の家族にちょうど年齢の近い女の子がいて、一週間くらい滞在したのです。最初は、異性ということもあるので、まともに話が出来ませんでしたが、しばらくして話が出来るようになりました。楽しく遊んだのです。最終日、(ごんたろうの勝手な妄想です!)女の子が、お気に入りの恐竜のぬいぐるみを少年にプレゼントし、少年は、「あ~」という生返事で、それを受け取り、「さよなら」の挨拶も十分に出来なかったのです。少年の心には小さな恋心が芽生えているのですが、それが何なのかは分かりません。少年の両親は、親戚家族を港まで送っていくのですが、少年は「おれ、いかねえ」といい、なぜか黙って山へ向かいました。本当は寂しいのです。女の子にデレデレする姿なんか、恥ずかしくて見せられません。少年のプライドがあるのです。ふと思ったのです。そうだ。汽船がちょうど岬のあたりを通過する!見送りにいこう!ふと思ってから、走り出すのです。実は、その時刻には汽船は岬のあたりを通過していました。(それが1ページ目のひまわりと汽船の絵です)しかしそんなことは少年には分かりません。時間の感覚が分からなくなっているのです。「汽船の音を聞いてから走り出した」という解釈も可能ですが、ごんたろうはそれは支持しません。走り出し、雨が降り始め、無造作に投げ捨てていた恐竜のぬいぐるみを手に取るのです。「こんなもん、もらったって」という心境です。バス停で、少年は、こう思います。「俺は、なんで、岬に行こうとしているのだ?」「ひょっとしたら、汽船から岬が見えるかも」複雑な心境です。で。走り出すのです。汽船はいません。しばらく、そこで待つのですが、もう通過した後だったのです。(もう、ごんたろうの完全妄想ワールドでも結構です!)その女の子の名前は、「みさき」だと思うのです。表紙のみさきの文字「さ」が少し下がっています。それもまたこの少年の心を表現しているのだと思います。
 ごんたろうが上記のように解釈した理由。汽船は「行く」のではなく「来る」と表記しています。ならば遠くからやってくるというイメージを持つべきかもしれません。しかしそれでは、この切ない気持ちが成立しなくなります。表紙のこの表情は、なんとも言えない、魂が抜かれたようなそんな表情です。 また、もし遠方から誰かが訪ねてくるのであれば、恐竜のぬいぐるみに、「うみだよ」と語りかけることの意味が分からなくなってしまいます。このぬいぐるみは、初めて海を見ることになるのです。汽船は、港から、この岬に「くる」そして目的の相手は、この離島から去っていく、のです。少年は、かなりのスピードで走っているようにも見えるのですが、雨が降ったくらいで、雨宿りをするのです。これは違和感があります。もし、これが尊敬する先生とか、親友だとか、そういう相手であれば、雨なんか気にせず走っていると思うのです。しかしここで雨宿りするということは、少し、走っていくことについての躊躇というか、心のゆらぎのようなものを感じるのです。もし「何が何でも岬へ行くぞ」という心境であれば、最初から時間を合わせて早めに到達するはずです。狭い路地でぼーっとしている時間そこから急に走り出すあたり、どう考えても少年の心の迷いが含まれているのです。以上のように考えれば、ごんたろうの推察が最も適当ではないかと思うのです。
 ただ、相手の人物については、女の子なのか、ひょっとしたら年上のお姉さんなのかもしれません。都会の雰囲気、色白な肌、少なくともこの離島には存在しない「風」今まで感じたことのない不思議な感覚。それを感じながら、少年は走っているのです。大人は、ニヤニヤしながら、「おおっ、初恋かね、いいねええ」等と笑えると思うのですが、少年にとっては、なんだか変な感覚でしかないのです。この絵本の世界における周囲の大人(絵本には登場しませんが)は、優しく見守っていると思います。裏表紙に描かれるひまわりが、とてもいいです。無気力になっている少年を、温かい眼差しで見守っているかのようです。美しい風景、大自然というものは、このような人間的な営みと重なってこそ、深い感動を与えるのです。人間的な営みと切り離したところに、美しい風景というものを見出すのは間違いだと思います。人間ドラマと美しい夏の情景とが見事に重なった素晴らしい絵本です!この絵本、少年の心を持つ全ての男性にお勧めです。女性には、分かりますかな?
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Posted on 2014/06/12 Thu. 21:12 [edit]

category:   1) 男の恋心

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