『勇気courage』感想  

(作・絵:バーナード・ウェーバー、訳:日野原重明、ユーリーグ、2003年)プール台からジャンプする、補助輪なしの自転車に乗る、ジェットコースターに乗る、それらは恐怖心を乗り越えようとする勇気である。私たちの日常生活ではそれ以外にも多くの勇気が必要。髪を切ったり、約束を守ったり、謝ったり、声をかけたり、最後までやり通したりする勇気である。それらは躊躇することなく自分自身をコントロールしたり道徳的な行動をしたりする気持ちだ。本書は非常に広い視野であらゆる勇気を取り上げる。さらに本書は、勇気を持つためには周囲の励ましが必要不可欠だということを示している。表紙と裏表紙にも描かれている。
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 この本では様々な種類の勇気が取り上げられています。どういう内容が扱われているのでしょうか?プールの高台からジャンプをする、補助輪なしの自転車に乗る、という勇気チョコレートの半分を、明日のためにとっておく、という勇気。ペットの犬の話です。夜になるとあちこちから様々な音が聞こえてきます。本当は怖いのですが、頑張って家を守る。それも勇気。初めて会う相手に声をかけて一緒に遊ぼうというのも、勇気。謝るのも、勇気。9回の裏、同点、2アウト満塁のチャンスで打席に立つのも勇気。喋らないと約束したことを喋らないで黙っておく勇気。演奏会を聞いている時など、静かにしていなければならない場面で、もし、面白い話を思い出しても、笑わない、勇気。好きな女の子にプレゼントを渡す、勇気。髪をバッサリ切ってもらう勇気。買ったばかりのズボン。破れてしまった、その理由を正直に言う勇気。ジェットコースターもう一度、乗ってみる勇気。登山探検、宇宙探検、深海探検、という勇気。一生懸命に作った砂の城が壊れてしまう。作り直す、勇気。別れたくなくても、別れる時にはさよならを言う、勇気。励まし合う勇気。さて、様々な勇気が多く挙げられています。
 勇気とは何でしょうか?基本的には「勇ましい気持ち」ということになります。本来的には、死の恐怖に立ち向かうことです。武器を持って、心を落ち着かせ、力を込めて戦う気持ちでしょう。しかし現代社会において、死の恐怖はそれほど多くありません。ライオンが襲ってくるということもありませんし、隣の国の人々が襲ってくるということも、多くの場合、ありません。本来的な意味での「勇気」というのは、それほど必要ありません。では、現代社会において勇気のようなものが皆無かというと、そうではありません。私たちは、心の中の不安を、「ふん!」という力で乗り越えるという様々な機会があります。恐怖や不安に負けてしまって、先へ進めないという場面があります。そこで自分自身を前に向けて奮い立たせる力、それが勇気です。では、どんな不安や恐怖があるでしょうか?
 1)バンジージャンプとか。ジェットコースターのような、そんな恐怖があります。死ぬことはありませんが、疑似的な死を体験します。子どもは補助輪のない自転車に乗るのは恐怖です。転倒して大けがをするかもしれないからです。ロープにぶらさがる遊具であっても、ひょっとすればロープがちぎれるかもしれないので、恐怖です。ごんたろうはロープウェイとか、スキーのリフトとかも、とても怖いです。突風がふけばどうなるか分かりません。京都タワーにのぼった時も、足が震えました。笑ごんたろうはバンジージャンプ未体験ですが、体験したいという気持ちもありません。この種類の勇気とは、戦う必要はありませんが、心の奥底の震える気持ちを克服する力です。恐怖を感じない、というのではありません。感じながらもなお、それを楽しむ力でしょう。心の中の「パワーの源」のようなものです。
 2)人から非難される、バカにされる、相手から雑に扱われる、そんな不安、恐怖です。大勢の面前に立つと緊張します。好きな女性の前に立つと緊張します。笑われるのではないか?バッターボックスに立つ瞬間。失敗すればみんなから責められるかもしれない。髪を切って学校へ行くと、みんなから何かを言われるのではないか?自分の心の中の素直な声を、思い切って外に出すという時、周囲の人間関係や規範や秩序を意識すれば、怖くなります。こんなことを言っていいのか?よし頑張って、思い切って言ってみよう。そんな心境です。もちろんうまくいかなくても、死んだり傷ついたりするわけではありません。しかし心が傷ついてしまいます。私たちは社会的な動物です。この勇気とは、自分と社会とをつなぐという勇気です。多くの場合、自分と社会をつなぐことができずに、距離が出来てしまうという恐怖を感じます。孤独が怖いのです。
 3)本書では、もう一つ、別の勇気が描かれています。それは、道徳的な行為、正しい行為をするという勇気です。(現在の学習指導要領「道徳」に記載されている勇気も、この種類の勇気です。)チョコレートを残しておく。約束を守る。謝る。途中までやりかけたことは最後までやり通す。別れの言葉をかける。そんなことが、「勇気」として描かれています。これを勇気と呼んでよいかどうか。意見は分かれるかもしれません。というのも、道徳を守らないということで、肉体的に傷を受けることはありませんし、ただちに心が傷付くわけではありません。恐怖心を感じるわけではありません。心の中は二つの立場に分かれます。一方は天使、一方は悪魔、そんなイメージで語ることもできるでしょう。迷いです。楽な方へ流された方がいいかもしれません。ルールを守る、迷惑をかければ謝罪する、節制忍耐といった部分は、強い意志が必要です。作者は、「正しい意志」もまた「勇ましい気持ちによって奮い立たせるようなもの」だと考えています。勿論、相手に共感するとか、相手に対して思いやりの言葉をかけるといった行為は、自然に感じられるような性質です。それは勇気ではありません。しかし一度「こうしよう」と思ったけれども、「しなくてもいいんじゃないか」という別の意識が後ろから引っ張ってきたとすれば、その引っぱりを振り払い、「フン」と力を込めて前に進むのは、おそらく「勇気」です。
 さて、最後のページについてです。「いっしょに、ふたりが はげましあうのも、ゆうき」とあります。この部分は本書では重要な意味を持っています。本書では犬が、たびたび登場します。犬の気持ちと、人間の気持ちを両方とらえています。最後に、犬と人間とが気持ちを伝え合うのです。この本では、勇気というのは、恐怖や不安に打ち勝つという意味ではなく、人間の心の中から湧き出てくるパワー、あるいはエネルギーのようなもの。それがより良い自分、より良い関係、そして絆を作っていく。ということが描かれているです。英文と日本文との両方を併記するということも、これは訳者である日野原氏の考えだと思うのですが、これはこれで良い効果を持っています。アメリカと日本とをつなぐという意味を帯びていきます。
 ほのぼのしたイラストはとても印象的です。表紙で描かれている男の子、プールに飛び込むのが怖いようです。この絵は、6ページにも描かれています。7ページにはニッコリ笑ってジャンプするのですが、それはなぜでしょうか?おそらく答えは裏表紙にあります。表紙と裏表紙をつなげると、多くの仲間がジャンプを励ましているという姿になります。この絵本のタイトルは「勇気」ですが、隠れたもう一つのテーマは「励まし」だと、ごんたろうは思います。もしこの絵本のテーマが「励まし」だとすれば、絵をみながら子どもに読み聞かせをする際にも、人物を励ましながら読む、ということが可能です。
 作品としてはとても素晴らしいのですが、最後の「あとがき」については、ごんたろうは否定的です。日野原氏が言おうとしていること自体は、それは素晴らしいことなのですが、日野原氏の願い、またそれはそういう一つの解釈でもあります。絵本という媒体は、映画と同じようなものであって、絵本だけで一つ完結するべきものです。あとがきが立派であればあるほど、多様な広がりのあり読み方を阻害してしまう。とはいえ、内容はとても印象的な絵本であることには変わりありません。是非、どうぞ。
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Posted on 2014/06/11 Wed. 20:59 [edit]

category:   5) 勇気を育む

tb: 0   cm: 2

コメント

はじめまして

的確な解説に心打たれました。
私のブログでご紹介させていただきたく思います。
勝手にすみません。素敵な記事をありがとうございました。

URL | ナカリママ #-
2015/11/06 21:32 | edit

コメントありがとうございます。

はじめまして。ナカリママさま。紹介していただき感謝します。ナカリママさまのブログも拝見させていただきます。今後もよろしくお願いします。ごんたろう。

URL | いもむしごんたろう #-
2015/11/08 23:01 | edit

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