『ちへいせんのみえるところ』感想  

(作・絵:長新太、ビリケン出版、1998年)どんよりとした雲、麦畑のような、海のような地面。ここから何が飛び出すか。男の子の顔。次はどうなるか?男の子が歩く?頁をめくると「でました」残念。象だ。次はどうなるか?ライオンか?頁をめくると火山の噴火。ナンセンスというのはランダムではなく、意味に対する挑戦である。作者は私達の予想を転倒させて笑っている。山だと思っていたらエイ、海だと思ったら飛行船、と続く。質感や匂いや音は削除され、形象だけが、にゅうっと浮かび上がる。男の子は地平線に何もないのが不満であり、そのエネルギーが爆発して、それらを生み出している。
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 おそらくは、作者の長新太氏は、この絵本を直感で作ったと思います。計算や狙いがあって作ったわけではないと思います。では、この絵本について論じることは、ナンセンスなのでしょうか。私はそうは思いません。ナンセンスをナンセンスとして扱うのではなく、そこに意味や概念を見出すことが大切です。不思議ワールドの中に入り、その絵本の良さと面白さを理論的に堪能することは可能だと思います。空はどんより曇っています。晴れではないのですが、かといって雨でもありません。一見すると麦畑のようにも見えます。この中途半端のどんよりとした世界において、私たちは「よく分からない」という感覚を得ます。地平線という、いわば「無」の空間において、わたしたちは「寂しい」という感覚を得るのかもしれません。
 「でました。」という言葉。男の子がひょいと顔を出しています。やや怒っています。なぜ彼は不満なのか。分かりません。彼は、次にどのように変化するでしょうか。笑うのでしょうか?立ってうろうろするのでしょうか?次のページをめくると「でました。」という言葉。象が登場します。男の子が象に変身したのでしょうか?男の子は去り、象が登場したのでしょうか?なぜ?象なのでしょうか?次は、何でしょう?「でました。」という言葉。火山の噴火です。次は、何でしょう?「でました。」という言葉。エイが飛んでいます。この絵本は、わたしたちの予想あるいはわたしたちの脳のイメージを裏切ること、わたしたちの頭の中の様子を壊そうとしているようです。飛行船、再び何も出てきません。南極のペンギンくじら巨大な客船ビル群、湖太陽そして、再び、男の子。怒っています。最後は、何も出てきていないシーンです。
 登場するたびに、受け手は、ビックリします。その感覚を、長新太は、楽しんでいるのかもしれません。ここで登場する様々な事物は、どういうつながりがあるでしょうか?いかなる意味があるのでしょうか?しりとり? ではありません。自然の事物と人工の事物がありますが、そこにも関係は見出せません。ちへいせんとは何でしょうか?わたしたちは地平線をぼーっと眺めていると、いろんなものを思い出します。頭の中に、浮かぶものとは、過去の記憶。特徴的な形象です。この絵本で登場するのは、「形として面白いもの」です。臭い、大きさ、温度、質感、音、それらは消し去られて、形象だけが浮かび上がっています。ペンギンが並んでいる。この形が面白いのです。
 地平線とは、何もない、さびしい空間であり、そこで人間は、様々な空想イメージを広げることができる、そんなことをこの絵本で描いているのだと思います。では。男の子が二度、登場するのはなぜでしょうか?最初と最後に登場します。男の子は、他の事物と異なる存在です。おそらくは、ちへいせんを見ている人間(読み手)の投影ではないでしょうか。いわば無としての地平線と、豊かなイメージの増幅との中間に、「私」がいる。そんな意味があると思います。男の子はなぜ怒っているのでしょうか?怒っている、というよりはむしろ、じっくり考えている、イメージを膨らませている、そんな姿に見えてきます。無に近い地平線を見つめながら、「なぜ何もないんだ!」「何かここに存在しなければならない!」ということを言いたいのだと思います。男の子のエネルギーと、読み手のエネルギーを共鳴させながら、様々な面白い形を浮かび上がらせていく。そんな絵本だと思います。
 出た時の雰囲気はどうでしょう?わたしは「ぽん」という感じではなく、「にゅううっ」という感じじんわり登ってくる感覚だと思います。特に飛行船が斜めに傾いているところからすれば、そのようなものだと理解できます。わたしたちは無意味なものが並んでいると、そこに何らかの意味を勝手に想像します。そのような人間の知的な営みさえも、ぶっ壊して、大笑いしているのかもしれません。なんだろう、なんだろうと困っている人々に対して、長新太は、大笑いしているのかもしれません。創造力豊かな、素晴らしい絵本です。
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Posted on 2011/11/25 Fri. 22:01 [edit]

category:   2) 意味不明の世界

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