『おこりじぞう』感想  

(作:山口勇子、絵:四国五郎、金の星社、1979年)原爆である。本書は死の淵にある人間を、丸太やぼろ布のようだと表現する。悲しいが表現は適当だ。少女が苦しみ死んでいく。これが残酷であるのはなぜか?たんに少女が命を落とすからだけではない。人殺しが国家という目的によって正当化されるから。国家は、人々に安心や安全をもたらすが、一歩間違えれば死をもたらす。少女は、日本国民という理由で、この運命を引き受けることとなってしまった。おじぞうさまが怒っているのはなぜか?人々が戦争という道を食い止めることが出来なかったから。怒る主体がいるということは絶望の中の小さな希望だ。
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 昭和のある日、広島の横丁に小さなおじぞうさんがいました。うっすら笑っておられた。その瞬間、飛行機から爆弾が投下されたのです。原子爆弾でした。いつもでしたら文章を引用しながら考察するのですが、今回は難しいです。小さな女の子が苦しみの中で死んで行く姿、おじぞうさんが仁王のような怒り顔になり、最後に首が崩れて粉々になるという情景。絵本といえども、リアルに伝わってきます。絵本は、ここまで、ですが、文庫版では、後日談があります。復興の中で、おじぞうさんの胴体だけが見つかり、そこにちょうどよい大きさの石を乗せたところ、しばらくすると怒り顔になった、という話です。
 とても、悲惨です。残酷です。あまりにも悲しい光景です。こんな光景は見たくないという読者の心境に対して、作者の側は、これが現実ですよと突き付けているように思えます。このような話から、最近の東日本大震災を想起する人も少なくないと思います。なぜ、戦争が悲惨なのでしょうか?目の前の少女が命を落としたから?勿論それは悲しいことです。女の子が命を落としたということが悲惨なのでしょうか?だとすれば、戦争での死と事故や天災での死は同じということになります。しかしごんたろうは、違うと思います。戦争が悲惨なのは、人殺しが正当化されるからです。自分の意志ではなく国家の意志で人殺しをするからです。子どもの悲しみや子どもの死といった、小さいながらにも大切なことが、大きな国家目標や集団的な熱狂によってかき消されてしまうこと。そこに残酷さがあると思う。「今はそんな小さいことを議論している場合ではない!」そんな力が、めぐりめぐって、小さな命を踏み潰してしまうのだと思う。
 なぜ、おじぞうさんは、怒っているのでしょうか?私たち人間が、こんなバカでくだらない戦争を始めたからです。戦争をしようとする人間は、一見するともっともらしいことをいいます。「あいつらが攻めてくるから、仕方ないだろう?」と言います。まるで自分自身は無実無関係であるかのような言い方をします。しかし彼らが私たちの国を攻めてくるというような状況になるまで放置していたことが問題です。人間の愚かさに対して、おじぞうさんは怒っているのだと思います。このおじぞうさんは、もともとは小さな路地やあたり一帯の日常風景を、あたたかい気持ちで見つめていたのです。だから遠くで戦争が起こっていても、気にしていなかったのです。しかし原爆が落ちてしまい、多くの人々が命を落とす光景を見てしまうと、もう、怒りが込み上げてくるのです。怒りが強すぎて、ついには、自分の姿形さえも越えてしまう。戦争が終わってもなお、周囲のものを怒り顔に替えてしまうほど、すさまじい力で、怒っているのです。
 この絵本で使われる言葉についてです。「おきあがろうとして おきあがれなかった 人びとが、あちこちに まるたんぼうのように ころがっていた。」「やがて、むこうの ほうから ぼろぬののようなものが、かぜに ふかれて ちかづいてきた。」人間が丸太のように見えたり、ぼろぼろの布のように見えたり。見たままの残酷な光景を文章に起こすと、このようになります。(これもまた一つの表現方法です)美しい物に触れたり、美しい言葉を聞いたりすると、気持ち良い。しかしこのような情景は、読んでいるだけで辛い。絵本は、究極的には希望や夢や明るい未来を描くべきだ、そんなふうに考える人は、この絵本はとても読めません。特に幼児には読ませたくないと思う人もいるでしょう。『ちいちゃんのかげおくり』も同様かもしれません。
 しかしながらごんたろうは、この絵本の中に、小さな希望を見出せます。それはおじぞうさん、あるいは山や川や、大自然がどっしりとかまえているからです。人間の愚かさに対して、怒ってくれるからです。それは、ごんたろうには希望に思えます。人間は愚かです。戦争をして、殺し合いをして、それで平和がやってくると信じているからです。それは間違いだとおじぞうさんは怒ってらっしゃる。戦争は、地震や水害などの天災ではありません。なんとかして、私たちの力で平和を構築していかなければなりません。おじぞうさんは、私たちの力を信じているからこそ、怒ってくれている。そういうふうに思います。そういう意味で、この絵本は、絶望の中の小さな希望を描いた絵本だと思います。ちなみに、最後の解説は、絵本に含めない方が良かったと思う。大切なのは分かりますが、自分で調べたり考えたりする余地が、失われるような気がします。
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Posted on 2014/02/08 Sat. 19:35 [edit]

category:   1) 戦争の悲惨さ、残酷さ

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