石森章太郎『ドッグワールド』感想  


M[05]


犬が人間のように言葉を使い、社会を作る。

そんな時代の話です。



アニメ『名探偵ホームズ』のように、

ヒューマンドラマをイヌで表現しているということではありません。


人間のように二足歩行するイヌたちの話です。







人間が作ったと思われる建物の廃墟、

地下鉄のあと、奈良の大仏、等があることから、

この世界は人間社会が滅亡した後の、ずいぶん後の話であることが分かります。





このイヌの世界には、いくつかの階級が存在しました。


まるで19世紀のような雰囲気です。

一つは貧しい農民階級、

そして、軍族階級、貴族階級です。

軍族の下にいるのが、兵士、

貴族の下にいるのが、剣士です。


軍族が貴族をつぶそうと謀略をはりめぐらし、

都のあちこちでは剣士と兵士のいざこざが起こっていました。

武器商人が間に入り、それぞれに武器を提供し、

大規模な戦争が起こりそうでした。





シバという名の若いイヌが主人公です。

彼は、立派な剣士になることを夢見て、貧しい田舎を去り、都へ向かいます。

イヌの社会状況が、シバの目線を通してリアルに描かれていきます。


シバは、都へ向かう旅の途中、

ゲリラ組織、反政府組織のメンバーと出会います。

組織の中に、一人だけヒトと呼ばれる者がいました。

全員イヌであるのに彼だけヒト。

ヒトは、話が出来ません。

しかしシバにだけは心が通じるのです。


都へ到着すると、

シバは、なんとかして念願の剣士になろうとします。

ゲリラのもとを離れ、ある学者のもとに居候を始めます。

その際に、ヒトはシバについてきました。

ヒトは、シバに対して通じ合うものを感じていたようです。



剣士と兵士のイザコザがあちこちで起きており、シバは剣士のメンバーとして迎えいれられます。

ポイント、バーナード、テリアン、

このあたりはまるで『三銃士』です。

剣士のもとに迎えられ、夢がかなったかのように見えました。




シバは、そんなある日、

刺客に殺されそうになります。


このシーンは、

とってもカッコイイ、緊迫感のあるシーンです。

シバに襲いかかる刺客、それをテレパシーで助けようとするヒト。



この刺客が、貴族の手によるものだと知り、

シバは動揺します。

軍族がシバを殺そうとするのは分かるけれども、

なぜ貴族が剣士である自分を殺そうとするのだろう??





なるほど、

貴族たちは、シバが重要なことを知りすぎたと思い、

それで刺客をはなったようなのです。


シバとヒトは、

貴族と軍族とが戦争を起こそうとしていること、

その背後には、武器商人の存在があることに気がつきます。







貴族も、軍族も、

それぞれが相手をつぶそうとしています。

シバとヒトは、戦争をくい止めようとします。

剣士を説得しようとしても、うまくいきません。



シバは、剣士たちのもとを離れ、

再びゲリラ組織と合流します。




軍族と貴族との間で戦争を起こそうとしているのは、

なんとイヌの国の最高権力者、法王でした。


法王の命令で、

武器商人が暗躍し、

軍族と貴族の間の対立をあおっていたのです。




シバとヒトは、

なんとかして戦争をやめさせようと必死です。

武器倉庫に侵入し、武器を破壊します。

ついに、

二人は、

バベルの塔のような巨大な神殿に向かいます。


シバとヒトは、その最も奥、

法王の座のさらに奥、「神」のところまでやってきました。





「神」とは、



巨大ロボット「タイタン」の中にいた、一人の人間でした。



彼の口から、驚きの事実を聞くことになります。



彼は、

大規模な氷河期で人類が絶滅したこと。

その中で、不死族の彼だけが、生き残ったこと。

彼はもう7000年生きているということ。

大氷河期を生き延びたのだけれども、

数百年の孤独に耐えられなくなり、

イヌの遺伝子操作を行い、イヌの世界を作り上げたこと。


等を語ったのです。



それが、今のこの世界だというのです。


ですからこの不老人は、

文字通り、「神」なのです。




話はこれだけではありませんでした。


この不老人は、

イヌたちがある程度の文明でとどまっているのを見た時、

文明が進歩するためには、金銭や権力への欲望が必要ではないかと考えたのです。

そして

金や権力への執着を「意識的に」作らせようとしました。


自らの高度な技術や武器を見せれば、

イヌたちは自分を神様と崇める。

こうして、この不老人は、神という形で、イヌたちの前に現れたのです。


そして階級や対立を起こそうとしたのです。





しかしそこから、

再び大規模な戦争へ向かってしまったのです。

一度、戦争への道が進んでしまうと、後戻りは難しい。


不老人は、

死なないわけではなく、細胞の劣化が遅いということです。


もう、7000年、生きている。

疲れた。

もう長くはない。




今後は、この世界をどうするか、イヌたちに決めさせようと考えたのです。

そのための相談役としてヒトを作った。

そう言い残して、

不老人と巨大ロボットは姿を消しました。












さて、


目の前の戦争や文明が、歪んだ方向へ向かっている。

その背後には、誰かの陰謀があるという見方は、

石森章太郎の作品にはしばしば用いられる世界観です。

特にサイボーグ009は、その世界観が多用されています。


80年代の名作アニメ『機甲界ガリアン』もまた、

同じような世界観を提示しています。




この『ドッグワールド』もまた、

目の前のこの世界を作ったのが

一人の男の、寂しさを紛らわせる行為(暇つぶし?)だった、

ということが最後に分かってきます。



物語の最後に、そのような真実が明らかになり、

それが衝撃的であるのは、

前半において、一人ひとりの豊かな会話、生活、風景が、

細かく、十分に、描かれてきたからです。


石森章太郎氏は、イヌを描かせたら世界一です。

個性的なキャラクターがたくさん登場します。

(人間よりも人間らしい、表情豊かなイヌたちをじっくり見て欲しいと思います。)



それら豊かな世界が、



たった一人の個人的な思いで作られたものだったということが分かると、


ビックリします。


「えええっ、そんなことのために、こんな大きなものを作ったの?」


落胆というか、絶望というか、


そんな気持ちになるかもしれません。




この不老人は、


やっぱりやめたといって見捨ててしまうのではなく、

やり直しといって全てを消してしまうのではなく、


イヌたちに、自分たちの未来を考えさせる、という選択をします。


その方法は、

神である自分が、上からメッセージを与えるのではなく、


自分とそっくりの「ヒト」を送り出すということでした。


それは相談役だったのです。





歴史や社会を、

一つの意思によって操作することは容易ではありません。

それは人間の「驕り」です。


未来は、

一つの意思や目的ではなく、

複数の意思によって成り立つ。

それを、この作品は、暗示しているように思えます。










さて、


もう「神」はいません。

後は、イヌたちが自分たちの未来を考える時です。



「ヒト」は、


イヌたちに呼びかけます。


兵士たちに捕えられ、

処刑される寸前。


太陽や雲や風と話が出来る力

こころの力

それは

みんなが持っている力であると、ヒトは呼びかけます。


シバが宙を舞い、

そして多くのイヌたちが宙を舞っていくシーンは、感動のクライマックスです。



これは確かに、

イエスキリストの話が重ねられています。

ここでの「ヒト」は、まるでイエスキリストです。


しかしその意味は、

大きく異なってくると思います。

特殊な力は、自分だけではなく、

みんなが持っているといいます。





端的に言えば、

こころが通じ合う=平和

こころが通じ合わない=戦争


という図式だと思うのです。



石森章太郎は『ドッグワールド』を通じて私たちに問いかけています。



人間は、何でも出来ると思い込んでいないか?

出来ると思ってやったことは、どんな結果になるか?

目的を見つめ、目的だけに縛られることが、本当にいいことか?

今、人間は、

自然の声、相手の声を聞き、

こころを通じ合わせるということを、しなくなっている。

それは自分で自分の首を絞めているようなものではないか?






そんな問いを投げかけながら、

広くて深い、大きな世界を描いていく名作です。



今、

こんな素晴らしい作品を作る漫画家は、いますか?


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Posted on 2014/01/11 Sat. 00:21 [edit]

category: 漫画

thread: 漫画 - janre: アニメ・コミック

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