テレビドラマ『女王の教室』感想(その1)  


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1.

このドラマは、

「悪魔のような鬼教師が子どもたちを厳しく指導していくのだけれども、

子どもたちが教師に対抗していくうちに、

友情や規律等の大切なことを学んでいく」というストーリーです。


 前半で描かれる対立や差別やいじめなどの多くの問題が、後半では全て綺麗に解決していきます。その意味では「前半は残酷な映像、後半は感動的な映像」という形になります。一見すると、めちゃくちゃなことをするなあという印象を受けます。最初の頃には苦情の電話が殺到したようです。テレビドラマですから、分かりやすさを追求するという点が不可欠です。かなりオーバーに、極端な事件や言動が描かれていくことになります。すると「こんなことは現実にはありえない」と思う人も出てきます。オーバーな部分、極端な部分だけを見てしまって、それを現実に直接求めてみたり(あんな先生がいたらいいなあ)あるいは「こんなものは所詮ドラマであるから」といった具合で、全てを娯楽として片付けてしまう。そういう人もいるでしょう。
 勿論、学校現場における現実の様子を知っている者としては、あんなことは絶対にありえません。その一方で私は、極端な部分、オーバーな部分を全て無視していけば、よーく分析していけば、そこに教育論としての重要なエッセンスを見出すことが出来ると思うのです。教育思想として読み解くこともできると思うのです。以下、そこで描かれている教師像について考えてみたいと思います。

2.「阿久津先生の五つの武器」阿久津真矢(天海祐希)先生は、暴言を吐いたり、怒鳴ったり、腕を引っ張ったりするような先生ではありません。淡々と、シビアに、指示を出していきます。子どものたちの思いやりの意識だとか、優しさだとか、そういった意識の部分には殆ど関心を示しません。心や気持ちをどうこうしようというふうには思ってないようです。教師が与えた指示に、子どもたちが従うかどうかに関心を向けます。当然、指示に従わない子が出てきます。子どもたち全員が反発します。指示に従いません。どうすればいいのでしょうか。その際、阿久津先生が持ち合わせている「武器」は何でしょうか?大きく五つあると思います。
 一つ目は、子どもの影の部分、子どもが隠しておきたい秘密を握っているということです。それを暴露されたくなければ指示に従え、という形で子どもたちを追い詰めていきます。言うことをきかなければ、全員の前で恥をかかせます。勿論、盗聴や24時間の監視というのは、ドラマ的な誇張表現です。しかしながらこれはとても重要な「意味」を持っていると思います。子どもは、学校の顔と家の顔とを使い分けています。(それゆえ家庭訪問は恥ずかしい!)親に叱られるようなことは隠していきます。子どもは、自分だけの秘密や悩みを持っていて、なんとか体裁を保っています。先生は、子どもたちが隠しておきたいと思っていることを、全て知っている、ということは、先生の強みなのです。実際には、盗聴や監視は出来ませんし、パソコンをいじったり、深夜に家の周囲にいるということで情報収集は出来ません。(情報収集のためには、それこそいろんな方との会話が必要)しかしながら教師は、子どものこと、悩みや不安も全て、熟知している必要があるという点では、このドラマは、見事なまでに教師の資質を描いていると思うのです。子どもが明るく振る舞っている時には「隠したいことがあるからこうやって無理をしているのだ」という形で理解するような目が必要です。子どもが、「この先生の前では隠し事をしてもダメだ」と思うようにすることが大切です。
 二つ目です。勉強したくない者を、教室から追い出す、遅刻は一切認めずに、教室に入れない、授業中のトイレも認めない、等の「駆逐策」です。現在の学校教育制度では、こうした頑固な立場は主張出来ません。トイレへの禁止は体罰になりますし、廊下に追い出すことは、学習権の侵害と考えられています。しかしながら、これもまた、とても重要な「意味」を持っていると思います。子どもと教師の関係は決して対等ではありません。子どもがやりたくないこと(勉強でも規律でも)をさせるわけですから、指示に従うということが絶対条件なのです。子どもたちが指示に従わなかった、ということは、すなわち教育活動の権威が喪失したということです。その権威を取り戻す作業が必要です。遅刻したり無視したり授業妨害したりするものを、そのまま認めるということは、もうそこに教育に対する権威が失われているということになります。ですから、子どもを追い出すということによって権威を作るのです。かといって、その子を教育の対象から外してしまうわけではありません。いったん教室の外に追い出すことによって、子どもたちが何のために勉強するのか、勉強しなければどうなるのか、ということを考えさせることが大切です。それを経験した者は、教室の中にいて授業を受けるということの意味や重みが理解できます。現実の学校教育では、なかなか本当に追い出すことはしていませんが、厳しく叱責したり、問い詰めたりすることで、子どもたちの心に響くように懸命に努力しています。「追い出す」という演出をします。それら行為は、意味としては、阿久津先生と同じだと思います。
 三つ目は、放課後の掃除や雑用といった罰を与えるということです。先生に反抗すると罰を課す。勉強や運動の成績が低いと罰を課す。しだいに、子どもたちは「罰が怖いから努力する」という形で、脳にインプットしていきます。一般的に罰を与えるのは良くないという変な風潮があります。子どもを傷付ける、あるいは苦しめるというようなイメージがあるのでしょう。しかし次のように考えるべきです。子どもたちに勉強をさせたい、しかし子どもは勉強しない、という場合。「子どもが先生の指示に従わなかった」という事実がそこに残ります。それについての大人や教師の側の反応を、子どもに返すことが大切です。子どもが勉強しなかったにもかかわらず、教師が何もしなかったとなれば、それこそ無視であり、子どもの存在と学校の存在を否定していることになります。子どもに指示を出す以上、指示に従わなかった者に何らかのインパクトを与えるのは、必要不可欠なことなのです。また、一度、罰を課してしまえば、次の日には、過ちはもう消えている。そこも大切です。罰は良くないという社会的風潮の中では、明示的な罰は与えにくいでしょう。学校現場の多くの先生方は、いかにインパクトを与えるかということで苦心されています。「そこに教育活動が存在する」ということは、「指示に従わなかった子に何らかの課題や苦役を与える」ということと同じなのです。最終的な到達点は、先生の指示に盲目的に追従するのではなく、先生の指示がなくても自分たちだけで考えるということです。とはいえ、最初は、指示と罰がセットになって定着するはずなのです。
 四つ目は、連帯責任です。これは、戦前の教育をイメージさせるため、現在では殆ど行われていないように思います。阿久津先生が行っているのは、決して言葉通りの連帯責任ではありません。距離のある子ども同士、バラバラの子ども同士を、共通の立場に立たせ、共に考え、共に悩み、共に喜びを得るようにしようという働きかけなのです。全く意識がバラバラの相手と、距離を縮めるためにはどうすればよいか。共通の利害のもとに置くことです。一般的には、弱者への思いやりということを求めていきますが、思いやり意識の低い者に、思いやりの気持ちを持たせるためには、やはり共同作業のようなものが必要だと思います。班活動と呼ばずに連帯責任と呼ぶあたりは、ドラマ的な誇張表現ですが、やっていることはいたって正しいことだと思います。
 五つ目は、特定の子をミニ先生に指定する、あるいは先生のスパイ活動をさせるということです。先生の味方をする子に特権を与えていくのです。学校現場では、今なお多くの先生方が期待する方法です。学校現場における多くの先生方は、「ミニ先生」が先生の代わりに他の子どもたちを上から目線で指導するということを期待します。しかし「ミニ先生」として特権を与えられた者は、その後、周囲との関係を築くのが難しくなります。彼は周囲の人間を見下してしまって対等な関係が築けません。そうした課題は残りますが、それでもなお、ごんたろうは、子ども同士の人間関係が、一度は教師中心でめぐった方がいいと思うのです。教師のインパクトが弱いところでは、強い子が弱い子をいじめてしまう。それゆえ教師の強いインパクトによって、子ども同士の人間関係が壊れてしまうということは、それは通過点として大切だと思います。ミニ先生やスパイ活動は、阿久津先生の本意ではありません。これを乗り越えて、より良い関係を作ってみよ、と促しているのです。以上の五つの方策を使いながら、阿久津先生は、子どもたちをより良い方向へと向かわせようとします。

3.「阿久津先生の指導プロセス」阿久津先生の取り組みを少し整理してみましょう。阿久津先生が最初に取り組んだことは、最も実力があって、クラスをまとめる力の人望のある子を見つけ出し、その子を核としてグループを作らせることです。阿久津先生が目をつけたのが、神田和美(志田未来)でした。軽いテンションでお調子者の男の子「真鍋由介」と二人を雑用係にして、掃除をさせていきます。掃除とは一見すると酷使、苦役のように見えますが、放課後にゆっくり話をする時間を与えているようでもある。さらに、阿久津先生は、常に秩序を乱していくような「真鍋由介」を、全員の前で恥をかかせます。彼の心の闇を暴露したのです。神田和美はそんな真鍋由介をかばいます。彼にも良いところがあると説明します。何でも知っている先生が、真鍋由介という子の良いところをみんなの前で指摘する、というのが、一般的な教育のあり方だと考えられています。阿久津先生は、「真鍋由介という子の良い面を知っている存在」を作り上げた上で、敢えて批判して見せる。神田和美が彼の良いところを指摘していく。おそらくそうなることを計算した上での仕打ちだったのです。
 次に阿久津先生が取り組んだのは、勉強が出来て意志が強いという「進藤ひかる」絵を描くことが好きで友達がいない「馬場久子」軽いテンションでお調子者の「真鍋由介」主人公の「神田和美」この4人をくっつけていくことでした。この4人が共同で取り組むように仕向けた上で、バッシングをしていく。先生が子どもをいじめる、ということです。4人を一つの班にさせた上で連帯責任をとらせる。その結果、教師に対抗するべく4人は力を合わせていくようになったのです。「敵の敵は味方」子どもたちにとって阿久津先生は共通の敵であって、その敵を意識することで一気に連帯感を持つことができたのです。次に阿久津先生が取り組んだことは、4人の仲間関係を広げていくことです。それにはちょうど起こった盗難事件を利用します。阿久津先生は、盗難事件の真犯人であった「佐藤恵里花」を徹底的に追い詰めていきます。神田和美ら4人が佐藤恵里花を許していくということによって、多くの仲間を得ることができました。おそらくそれも、阿久津先生は予測していたはずです。次に阿久津先生が取り組んだことは、クラス全体の連帯です。やんちゃグループと真面目グループの対立を煽っていきます。進藤ひかるが「雑用はクラス全員でやろう」と提案した際に、阿久津先生は、その主張が真面目グループには共有されていないという矛盾をついていきます。また阿久津先生は、お互いがお互いを非難したり、悪口を言ったりしていると、指摘していくのです。真面目グループはやんちゃグループが「頭が悪い」といい、やんちゃグループは真面目グループを「ネクラ」だという。実際には、そんなことは口にしていなかったのです。とはいえ、そういうことを言いそうだという雰囲気は、誰しもが感じていました。阿久津先生が提起していたのは、ひょっとしたら心のどこかにそのおうな言葉を思い描いているのでは?という部分です。矛盾や対立を浮かび上がらせていき、それを修正していくのは子どもたちに任せます。この危機についても、明るい4人が中心となり、克服していきます。クラスは団結していきます。次に阿久津先生が取り組んだことは、保護者との連帯です。三者面談で子どもと保護者の対立が浮かび上がります。子どもたちは親の不平不満ばかりを言います。そんな子どもたちに阿久津先生は、詰め寄ります。「あなたたちは子どもなのですから、親の指示に従うべきです!」「もし、やりたいことがあるのならば、親を説得するか、親元を離れて自分で生活するか、どちらかです!」そこで、子どもたちは、親に反発したり隠れて文句を言うのではなく、自分の気持ちを伝えて親を説得しようとしていきます。最後に阿久津先生が取り組んだことは、勉強意欲の向上です。子どもたちは、真剣に自分の将来を考え、一生懸命に取り組むことが、鬼教師阿久津真矢に勝つ方法であり、そして大切なことであると考えるようになったのです。解釈や分析については次の頁。(2005年製作、日本テレビ)
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Posted on 2014/01/11 Sat. 00:18 [edit]

category: テレビドラマ

thread: テレビドラマ - janre: テレビ・ラジオ

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コメント

もう10年ほど昔のドラマですが、その後いかがでしょうか。
いもむしごんたろう樣は阿久津真矢のような教師になれましたでしょうか。
個人的に教育再生実行会議は世間からの批判を受けてでも天海祐希氏を有識者として迎えるべきだったと思っています。
教育現場を上意下達に変えていくのに重要なのは、提言ではなく分かりやすい象徴だと考えているからです。

URL | とあどま #IwZaysKE
2015/04/23 15:11 | edit

同感です。

とあどまさま。コメントありがとうございます。そうですね。阿久津真矢のようになりたいのですが、なかなか難しいです。一方、教育改革は問題だらけだと思います。トップダウン式の改革は、トップの自己満足みたいなものです。日々前の現実に向き合う先生になりたいです。とあどまさま。今後も宜しくお願いします。

URL | いもむしごんたろう #-
2015/04/26 05:58 | edit

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