『ゴリラのパンやさん』感想  

(作:白井三香子、絵:渡辺あきお、金の星社、1991年)ゴリラが頑張ってパンを売る話。私達はまずは外見で店を選んでしまう。店員がゴリラだと少し怖い。ゴリラはお客様に喜んでもらう方法を思案し、悩んだ結果、指人形を使う。それが意味するのは、バイトで若い女性を雇うようなことか。するとワガママな客(キツネ)がやってくる。ゴリラはキツネを追い払う。店員が客を選んで何が悪い。最後は森の動物たちがゴリラのパンやさんへ足を運ぶようになる。それはゴリラの誠実さや優しさが伝わったからである。サービス業の基本は、顧客満足度ではなく誠意や真心だ。本書は、人間の人間らしいあり方を描く。
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 幼稚園や保育園で、お店屋さんごっこをすることが多いと思います。大学生であっても、大学祭になれば模擬店という名前のお店屋さんごっこをします。何が魅力的なのでしょうか?今回ご紹介する絵本はそれを考えるヒントになります。  あきの おわり、  ゴリラのパンやさんが  おかの うえに  ちいさな みせを ひらきました。早速、ニワトリが、匂いに寄せられてやってきました。ゴリラが大きな声で「へーい、いらっしゃい!」と言ってしまったので、ニワトリたちはビックリして逃げていきました。ゴリラはガッカリです。ゴリラは「ちゃんとみせばんをしていないといけないんだな、きっと」と反省しました。ひつじさんがやってきたときも、「いらっしゃい!」というゴリラの声にびっくりして逃げてしまいました。ゴリラは「ちょっと あいそが たりなかったんだな、きっと」と反省しました。今度はたぬきさんがやってきました。ニッコリ笑うと、大きな歯を見てビックリ、たぬきも逃げてしまいました。ゴリラは、困ってしまい、一晩考えて、小さなサルの指人形を作りました。指人形が店番です。うさぎの子どもたちは大喜びでした。そこへキツネがやってきて、うさぎさんを押しのけて自分が買おうとしました。そこで、隠れていたゴリラは「こらあ」といって姿をあらわしました。キツネは逃げていきます。「しまった」ゴリラは落ち込んでしまいます。しかし、うさごの子どもたちは、逃げませんでした。「ゴリラのおじさん、チョコパン ちょうだい」「ぼく、アンパンとドーナッツ」「わたし、クリームパン」なんと子どもたちはパンを買おうとしてくれたのです。こうして、毎日、子どもたちがパンを買いにきて、もりのみんなもやってきて、ゴリラのパンやさんが大好きになりました。めでたし。最後のページには、キツネさんがパンを買っています。裏表紙には、ゴリラが指人形をして子どもたちと遊んでいる姿が描かれています。
 さて、サービス業です。サービス業とは、お客様の要望にこたえ、お客様を満足させることによって代償を得る。農業や水産業、工業などはサービス業ではないと考えられてきましたが、最近は、農家であっても、お客様のことを考え、場合によっては直接取引するということが増えてきたように思えます。ゴリラもまた、初めてのサービス業だったのでしょう。それまでは、ガオーっと叫んでみたり、欲しいものを奪い取ったり、自分の好き勝手に過ごしていたのかもしれません。そんなゴリラが、パン屋さんになろうというのですから、随分と苦労したはずです。最も苦労するのは、お客様への接客です。本人は、ふつうに挨拶をしたつもりであっても、お客様から見ればふつうではない。怖い。こちらが一生懸命やっていても、相手にはそれが伝わらない。よくあることです。本人は笑顔のつもりでも、お客様には伝わらない。ならば仕事をやめるか、努力するか、どちらかしかありません。こちらが頑張っていても、評価は相手がするのです。頑張った、努力した、では通用しません。その意味では学校の先生も同じです。こちらはこんなに一生懸命にやっているのに、それが子どもや保護者には伝わらない。伝える努力が必要です。学校も、性質は違いますが、サービス業です。そして子どもや大学生が、お店屋さんごっこを楽しむ理由は、新しい自分に変身したいという変身願望、さらには、相手に何かを伝えたい、相手から何かを受け取りたい、そんなコミュニケーションを切望する心がある、と思います。
 ある人は、この絵本から「外見で相手を判断してはダメ」という結論を導き出そうとしています。それはピントがずれていると思う。私たちはどうしても外見で判断する。特に商売は、それが徹底しています。この絵本は、外見で判断してはダメと言っているのではなく、外見で判断してしまう現代社会の風潮の中で、わたしたちはどのように生きるべきかということを問うている。
 さて、ゴリラが指人形を使って接待をしました。これは、一体、何を意味しているでしょうか?ごんたろうには、看板娘、あるいは、接客専用の職員を雇用した姿に見えます。売り場に、美しい女性を配置したり、イケメンの男性を配置したりするのです。そうすることで、店長の負担は減ります。お客様も満足です。お客様は大喜びです。すると次にどんなことが起こるでしょうか。その女性を目当てにして客が集まってきます。中にはその女性に恋をしてしまう人が出てくるかもしれません。また、中には、勘違いをしてしまって、店員に対して暴言を吐いたり、乱暴に扱ったり、あるいは、苦情や要求をつきつけたりするような客も出てくるでしょう。お客様は、「俺様の満足」を掲げて、あらゆる要求をつきつけてくるのです。「お前たちサービス業は、俺様を満足させるべきである」なんてふうに考えてしまうのです。すなわち、この絵本で描かれている指人形とは、接客のための「過剰サービス」なのです。キツネが乱暴になってしまったということは、現代社会の過剰サービスとそれに乗せられる人々を描いている、というふうに思います。
 この絵本では、ゴリラがキツネを叱責します。ワガママで身勝手なお客には、やはり誰かがホンキで叱る必要があります。現代社会では、そのようなことは難しい。接客業の多くは客の横暴さに困っているのですが、なかなか誰も何も言えないような状況です。その意味でゴリラは素晴らしい。ゴリラの落胆にかかわらず、子どもたちはパンを買おうとします。「ゴリラのおじさん、チョコパン ちょうだい」この言葉は、素敵です。子どもは、何事もなかったかのように、ゴリラのおじさんからパンを買おうとするのです。人形であっても、ゴリラであっても、変わらないのです。子どもは素直な感覚で、ゴリラ=怖いという偏見もなく、ふつうにパンを買おうとしている。とても嬉しいことです。そして、もりの動物たち、それまで怖がって近寄らなかった者たちも、パンを買い求めるようになりました。なぜでしょうか?私たちは、たんにパンを購入しているのではなく、相手の人柄や人間性などを含めて購入しているのです。あるいは、そうした人間同士の、あたたかなコミュニケーションの中で生きることを望んでいる。ゴリラが子どもたちと接している姿を見て、あ、この人はとても良い人なんだな、と思う。こんな誠実であたたかな人であれば、その人の作ったパンも、安心でおいしいはずだ、というふうに思う。商売は、一見すると、お客様のために、お客様を満足させるための、お客様を王様のように扱うような仕事です。しかし、お客様もまた人間で、人間的な心をもっているはずです。ですから、「信頼」や「安心」も含めて、取引をしたいのです。どういう人間が、どういうふうに商品を作り、どういう心境で売っているのか。それを知った上で買いたい。今はインターネットのボタンで商品が届きます。便利さを追求しすぎるように思えます。ネットの向こうにどういう人がいるのかも、分かりません。自分の手元のお金がどのようにして相手に到達したのかも分かりません。それは決して人間的ではありません。外国へ行くと「まけてくれ」「まけてやろう」云々の交渉が面倒ですが、あれも、本来の人間的なやりとりなのかもしれません。
 最近はネットを活用しながらも、対面販売の良さを取り入れているところもあります。海産物や農産物は、生産者の顔が見えると、ずいぶん変わってきます。どうやって苦労して作ったかが分かれば、高くても買いたくなります。ちょっとぐらいにがくても、ありがたみを感じながら食べると思います。ちょっとぐらい傷モノであっても、相手の顔が見えれば買ってみようという気持ちになります。このお金で、この目の前の人が、生活しているんだ、と思えば、少しくらい高くても買うと思うのです。企業の社長が儲かっている、と思えば、1円でも安く買おうと思うのです。この絵本が描いているのは、「思いやり」「やさしさ」といった簡単な話ではありません。現在の商売のあり方、そして商売を通じた人間の生き方を描いている、素晴らしい絵本です。
 ちなみに。三波春夫が「お客様は神様です」と言ったらしいのですが、それはお客様のワガママに追従するという意味ではありません。お客様に媚びているわけでも、お金が欲しいと切望しているわけでもない。三波が言いたかったのは、自分がマイクを持ってステージ上で歌う際に、目の前に神様がいるかのような敬虔な心で歌う、ということなのです。(ウィキペディアより)
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Posted on 2013/12/26 Thu. 18:44 [edit]

category:   2) 商売と市場

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