『にんじんケーキ』感想  

(作・絵:ノニー・ホグローギアン、訳:乾侑美子、評論社、1979年)男女の難しさとはこういうものである。男性は、自分の世界を作り言葉を発すれば、相手が喜ぶと思う。相手を楽しませようと力が入り、気がつけば自慢話になってしまう。女性は感じたことをそのまま伝えたい。男性は、話の内容はあまり気にせず彼女の心の揺らぎを感じてあげよう。分かっちゃいるけど難しい。男女は、どちらも期待する返事が得られずに困ってしまう。では、一切の縁を切って新しい出会いに賭けるか。黙って一緒にケーキを食べるか。恋愛を楽しみたいのならば前者だが、本書は後者を選択する。私も後者を選ぶ。それは歳だからか?
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 うさぎの結婚式から始まります。幸せそうな結婚式です。  にひきのうさぎがけっこんしたとき、  これほどにあいのふうふは、うさぎの  くにじゅうさがしてもみつからないだろう、  といわれたものでした。キャベツのシチュー、カブのパイ、やわらかいレタス多くのうさぎたちが楽しく歌ったり踊ったりしています。花嫁のお母さんは、「だんなさんをあいし、そんけいする、やさしいおくさんに おなり」と言い、花婿のお母さんは、「おくさんをあいし、いたわっておあげ。かなしませてはいけないよ」と言いました。さて二人の新婚生活がスタートしました。ある日、二人はお散歩をしました。だんなさんが「なんのはなしをしようか」とききました。「わたしはおもいつかないわ」とおくさん。「それじゃあ、きょう、ぼくがまちへいったときのはなしをしよう」だんなうさぎは、まちでチョッキを買ったという話をしました。しかし、おくさんは「あら、そう」としか言いません。だんなうさぎは、少し不満になり、「『いいチョッキだわ、ぼろぼろになるまで、それをきて、きもちよくすごしてくださいな』とでもいいたまえ」と言いました。おくさんは、その通りに「いいチョッキだわ、ぼろぼろになるまで、それをきて、きもちよくすごしてくださいな」と言いました。だんなうさぎは、「うん、それでいいんだ」と、満足気です。話を続けて、だんなうさぎは「それからぼくは、ふゆにそなえて、たきぎをあつめた」と言いました。するとおくさんうさぎは、「いいチョッキだわ、ぼろぼろになるまで、それをきて、きもちよくすごしてくださいな」と言ってしまうのです。「ちがう、ちがう、ぼくは、たきぎのはなしをしているんだ。『ふゆになったら、それをもやしましょう、あたたかいでしょうね』といいたまえ」とだんなさん。
 おくさんは仕方なく、「あら、こんどはそういうの?」といいながら、言われた通り、「ふゆになったら、それをもやしましょう、あたたかいでしょうね」と言いました。同じようなやりとりが続きます。だんなうさぎは、食べ物を探しにいって、にんじんケーキを買って、云々という話をしたいのです。しかしおくさんは、ちょうどよい言葉を返してくれません。だんなさんは、こういう時はこういうふうに返すものだよ、と説教をしてしまう。最後には、ついに、おくさんが怒ってしまいます。「ひどいのは、あなただわ!」ついにおくさんはだんなさんを叩いてしまいます。「ああいえ、こういえって、おせっきょうばかり。 わたしだって、あなたがおもっているほどばかじゃないのに」だんなさんは、困ってしまいました。「きょういちにち、わたしがなにをしていたか、きいてちょうだい。 わたしがうちきでも、 ばかなことをしても、がまんしてほしいのよ」おくさんは泣いてしまいました。だんなさんは言います。「ぼくは、しゃべるのにいそがしくて、 きみのことをかんがえなかったんだ」するとおくさんは、こう言います。「ときには、だまっているのもいいものよ」  ふたりは、しあわせなきもちで、うさぎあなに  かえって、にんじんケーキをたべました。  なにも、はなしはしませんでした。
 さて、この絵本は、男性の心理、女性の心理をよく表現しています。男性は、無という空間に一定の秩序を組み立てていこうとします。何も話すことがないよね、となれば、「よし俺が面白い話をしてあげよう!」という具合であれこれ試行錯誤をして、面白くて楽しい話、いろんなうんちくを含めた話をします。素晴らしい話、ためになる話、深い話をしようとします。エンターテインメントです!最初は驚かせよう、笑わせようという動機なのですが、いつしか、それがたんなる自慢話になっていきます。たぶん、ちょっとした誤解なのです。自分が面白い話をしていて、相手が喜んでいるとなれば、ならば私の人間性の素晴らしい話にも興味があるはずだ、と思い込んでしまうのです。俺様はこんなにすごいんだ、という自慢話になってしまうのです。ごんたろうも、つい、自慢っぽくなってしまわないか、いつも気にかけています。
 女性は、会話を始めようというぐあいで、寄ってきてくれるのは嬉しいのです。ニコニコ笑顔で、やってきて、あれこれと話をふってくれるのは嬉しいのです。それで嬉しそうな表情をするのですが、しばらく話をきいたら、今度は、自分が話をしたいと思うのです。今度は私の番よ。しかし目の前の男性は、もっともっと面白い話をしようとします。男性はよく準備をします。この話は絶対にウケるはずだと思って、計画的に話を進めます。しかし、もう、そこで止めた方がいい。今度は目の前の女性が、今あなたが喋った分の3倍の量を話すので、それをじっくり聞いてあげましょう。女性の話は、男性から見ると、とくに落ちがない。だからなんだ?というような話が多い。あるいは結論のない困った話、困った困ったと永遠に聞かされるので男性は辛い。じゃあこうしろ、それならばこれがいい、と、どーしても言ってしまう。あれよあれよという間に、ケンカになってしまいます。二人は、二人ともじっくりと楽しい話がしたいにもかかわらず、話が出来ない。もっと大人数で、5~6人で話をすればいいのかもしれませんね。男女二人で話をするというのは難しいです。
 この絵本は、一見すると、夫婦の関係について取り上げていながら、夫婦に限定せずに、あらゆるコミュニケーション全般にも共通するようなテーマを扱っています。一般的にいって、わたしたちは、自分の頭の中にモデルとなるコミュニケーションの形を描きながら、言葉を発します。私が自分の話をしたら、「へえー、すごーい、ほんとー?」「どうしてあなたはそんなすごいことができるのお?」「もっとおしえて、いままでどんなことに成功してきたのお?」なんて、言って欲しい。相手がそんなふうに返してくれたら、さぞかし嬉しいなあ、等と思いながら言葉を発する。しかし実際にはそのようなことはありません。その期待が外れると、しだいに、つまらなくなってしまい、そのうち会話をしなくなる。あるいは中には、お前は私の妻になったのだから、私の話に合わせて「ヨイショ」するべきだ!というようなゴーインな人もいるようです。それは、結婚というよりは、支配?です。理想的なやりとりにこだわっていてはいけません。目の前の人は、自分とは異なる感性があって、考えがあって、この人なりの価値観で判断しているのだ、ということは踏まえておかなければいけないでしょう。
 その一方で、仕事は、意味が変わってきます。権力を握ると、周囲の人々が一斉に「よいしょトーク」をしてくれます。接待です。そのうちイエスマンだらけになってしまい、気持ちよくなってしまい、真実を見つめる力を失う。ごんたろうが目上の人と話をする時には、基本的には「よいしょトーク」です。その方も、こちらがよいしょトークをしているということは、薄々分かっているのかもしれません。ごんたろうは目の前の人が、ごんたろうに対して「よいしょトーク」を始めたら、一方で嬉しいな、ありがたいな、と思いつつ、もう一方で彼の本心を考えます。「いいよ、そんな無理しなくって」というふうに言ってしまいます。コミュニケーションとは、気持ちよくてスムーズで、幸せなものではなく、もっとごこちなく、ガタガタしていて、うまくいかずに、困ってしまう。そういうものだと思います。そして、時には何も話をしない。話はしないのだけれども、そこにいる。一緒に何かを食べている。そういう関係も大切です。 友人が結婚すると分かり、素敵な絵本をプレゼントしたいと思ったのならば、『しろいうさぎとくろいうさぎ』ではなく、こちらの『にんじんケーキ』をおススメします。絵も必要以上にかわいくなく、素朴で温かい絵本です。
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Posted on 2013/12/14 Sat. 17:27 [edit]

category:   4) 結婚

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