「トム&ジェリー 天国と地獄」感想  

 このアニメ(フレッド・クインビーのプロデュース)の作品の完成度は極めて高い。とても1940年代に制作されたものとは思えません。今このような作品を作ろうとしても、おそらく無理です。誰かに残酷だと言われそうです。技術の進歩とは何か?と考えさせられます。ねずみは食べ物を探すというのは自然の摂理ですし、猫がねずみを追いかけるというのも自然の摂理です。本来そのような存在なのです。猫がドジをふんで、ネズミを捕えることが出来ないというのが、このアニメの基本的パターンです。それは笑いの基本だと思うのですが、そんな簡単なことさえ、残酷だという言葉で処理されそうで、怖いです。トムとジェリーは物理的には絶対にありえない動きをするのですが、ある意味で、物理法則に忠実です。身体はまるでゴムのように、アイロンが落ちてきたらアイロンの形になるし、狭い管の中に入れば管の形に変形します。ちょっとねじってまわせば、プロペラになって飛んでいってしまいます。つまりは作用と反作用の関係が、現実は1対1なのですが、トムとジェリーの世界では1の力を加えると100になって反応する、そんな仕組みでしょうか。また、からしを食べれば口から火を吹く。画鋲を踏んだら叫び声をあげる。コショウをふりかければ、ひゃっひゃっヒャックションと吐き出す。生命を表現しているといえばいいのでしょうか。食べ物を食べる時の美味しそうなこと!表情や動きなどは極めて生命の躍動を感じさせます。効果音も徹底しています。
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 全ての作品が素晴らしいのですが、この作品「天国と地獄」は、トムとジェリーの最終回にふさわしい名作です。(もちろん、最終回ではありませんが)ちなみに英題は、hevenly puss(天国への特急券)です。トムがいつものドタバタの中で、死んでしまうというシーンから始まります。いつもならばこのくらいのことでは死なないのですが、なぜか、今回だけは、巨大なピアノに挟まれて、トムは死んでしまいます。目の前に黄金の階段が現れて、トムは吸い込まれるかのように階段を上っていきます。ちょうど天国行きの超特急の発車前でした。他の猫たちも入口を通過しています。頭を殴られて死んだ猫、ローラーにひかれて死んだ猫、捨てられて死んだ赤ちゃん猫もいます。みんな駅長に許可してもらって列車に乗り込んでいきます。さて、トムです。トムはなぜか駅長に隠れて列車に乗ろうとします。見つかって呼び止められます。「トム!君は、罪のないねずみを毎日いじめてきた」そんな猫は天国へ連れていくことはできません。ただし、ねずみに謝罪して、許してもらえば、列車に乗せてもいい。書面には「全てを許します」とあります。これにジェリーのサインが必要なのです。それが出来なければ…といってモニターをつけると、地獄で怖い顔をした犬(スパイク)が、巨大な釜をかき混ぜながら笑っています。「トム!今すぐこっちへこい!」あんなところへ落ちたら大変です。1時間しかありません。急いでジェリーのもとへ行きます。
 さて、ケーキを用意してジェリーに渡してみます。しかしジェリーはトムの言うことを聞く間もなく、あっという間に平らげてしまいます。再び捕まえて、サインを求めます。しかしジェリーはいつものことと思い、ペンのインクをトムに吹きかけてしまいます。困ったトムは、自分でサインしてしまおうとするのですが、検査官に「ずるはいかんぞ!」と声をかけられてしまいます。今度は、チーズと証書を両方持ってきて、ジェリーに頼んでみます。「これをあげるから、サインをして」という意味です。ジェリーは、やっと理解しました。しかしこれまでの暴力の数々を、そんなチーズで許す等、出来ません。頭にきて証書をビリビリに破いてしまいます!トムは激怒して、ついに暴力に訴えようとします。するとボンと地獄の犬が浮かび上がります。「そうだ!その調子だ!やれ!」等と言います。はっとします。いけない、このままでは地獄に落ちてしまう。なんとかサインをもらわなきゃ。再び書面を全てセロテープで止めて、お願いします。今度は真剣です。 おねがいだあ! このままでは天国に行けない、 地獄へ落ちてしまう。 お願いだ、許してくれ。 悪かったよ、 君を傷付けたのは悪かった、 だから許してくれ~…等と言ったかどうかは分かりませんが、余りにも真剣だったので、ジェリーはサインしてあげることにしました。サインをもらった、という時点で、列車の出発時刻です。
 慌てて乗り込もうとするのですが、黄金のエレベーターが消え、床がすっぽり空き、すーっと地獄へ落ちてしまいます。地獄の犬が大笑いしています。苦しむトムしかしそれは夢でした。トムが見ていた夢だったのです。それに気づいたトムは、急いでジェリーを呼び出し、ありがとう!ありがとう!と感謝し、キスをして抱きしめるのでした。ジェリーは何のことやらさっぱり分かりませんでした。さて。本作品「天国と地獄」は、いつものトムとジェリーのドタバタコメディを前提としつつも、それとは異なる視点を提示しています。いつもは、トムがジェリーをいじめたり、追いかけ回したりするわけですが、最後は立場が逆転し、ジェリーが大喜びする、弱肉強食の世界を、ジェリーが自らの知恵で勝利する、そんなストーリーです。しかし本作品では、トムは、いじめられる側になります。ジェリーをいじめたというトム自身の理由によって、トムが地獄へ落ちるという設定です。これまでの全てのトムの悪行そのものが、ここでは問題とされているのです。あんな悪行をするのだから、当然地獄へ落ちるはずだという思いが、この作品には込められているように思えます。(ひょっとしたら作者の反省の念が含まれているのかもしれません)そして、それを許すかどうかが作品の後半のテーマです。許すというのは、重大な行為です。忘れるのではありません。嫌なことをしてきた相手を、愛によって受け入れるということです。ジェリーはおそらく、「許して欲しいだって?はあ?冗談じゃない、なんて自分本位なんだ」そんなふうに思ったでしょう。トムはこの時点で、はっとするのです。自分は今まで力づくて解決しようとしてきたし、勝負で負けてしまうことはあっても、自分の考えを曲げたことはなかった。しかし今回ばかりはうまくいかない。ジェリーの許すという行為、ジェリーの意思、すなわち「愛」が必要なのだ。そのために一生懸命に頼む。トムは、変わったのです。
 この作品の中で、ジェリーが本当に許したかどうかは定かではありません。「もう、そこまで言うなら、仕方ないなあ」と思ってサインをしたようです。確かに、あと一歩のところで間に合わなくて地獄へ落ちてしまうのですが、重要なことは、サイン自体は、「もらえた」ということです。時間の関係で間に合わないということと、サインがもらえないということでは全く意味が違います。トムは、許してもらえた。「天国への特急券」をもらった、トムは「天国へ行く資格」があるということです。ジェリーが最後の最後では許してくれる、ということが、分かった。それは夢の中であっても構わないのです。(天国や地獄というのは、現実の世界ではないという意味で、 夢の世界と同じだからです。)最後にトムがジェリーに感謝しているのは、トムがまだ夢の中から覚めていないのではありません。もう、はっきりと夢ではないということが分かっているのです。ジェリーが自分の悪行を許してくれているという確信を得たのです。それがゆえにジェリーに感謝しているのです。思うのです。この作品は、トムとジェリーの最終回のような位置であるだけでなく、第一回目という位置でもある。これまでトムがジェリーをいじめてきたという過去を清算するというだけでなく、明日からも、安心して、気持ちよく、ドタバタ劇を続けることができるという未来を確信しているのです。それはジェリーの「もー、しょーがないなー、分かったよ、サインしてやるよ」という部分によって、成し遂げられている。それは紛れもなくジェリーの「意思」です。それゆえ、明日からも、トムはジェリーをいじめ続けることができるのです。この「天国と地獄」という作品によって、トムとジェリーは永遠なものとなった、といえば言い過ぎでしょうか。位置づけとしては、「さようならドラえもん」→「帰ってきたドラえもん」と類似していると思います。今なお、あたかもリアルタイムであるかのように、多くの子どもたちに笑いと幸せを提供しつづける、名作アニメです。(1949年作品)
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Posted on 2013/11/22 Fri. 05:12 [edit]

category: アニメ・特撮

thread: アニメ - janre: アニメ・コミック

tb: 0   cm: 2

コメント

初めまして、かなり前の記事ですがとても共感したところがあり、思わず書き込ませていただいた次第です。

つい先ほど、カートゥーンネットワークにてその回を見たところです。
トムジェリはもうかなり見ていますが、この話を見たのは初めてでした。いつもなら笑って見ているのに、今回の話には食入るように見てしまい…!
大変素晴らしい作品だと思いますっ とてもとても感動しました。

URL | れーや #Z5Q3nOes
2014/06/24 19:50 | edit

コメントありがとうございます。

れーや様 共感して下さりありがとうございます。頑張ってブログを続けます。今後も宜しくお願いします。

URL | ごんたろう #-
2014/06/25 20:51 | edit

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