武田鉄矢「人生の秋に」感想  

しみじみとした名曲です。
  古ぼけたアルバムから、
  枯葉みたいに落ちてきた。
  黒髪若い母の顔。
  考えてもみなかった。
  母にもまた青春があり、
  唇赤く染めたのだ。


少年は母親という存在がうざったかったり、めんどくさかったり、恥ずかしかったりするものです。それが何かのきっかけで昔の写真等を見た時に、あ、こういう女性だったのか。等と思うものです。私もそうでした。今の時点での自分と母親との関係の眼差しではなく、全く別の男性という眼差しで一人の女性を見つめるような、そんな眼差し。もう一つの視点から見つめることが出来るということは、それだけ自分の器が大きくなったということでもあります。そうか、この人も、昔は一人の女性だったのだという素直な驚き。この曲の主人公は30代の男性といったところでしょうか。母親は50才過ぎ、そんな設定だと思います。

 主人公の男性が母親に尋ねてみたのです。しかし母親は答えてくれません。なぜここで「指をみる」のでしょうか?ちょっと恥ずかしくて、照れているのでしょうか。下を向いて、目のやり場に困ったところに、たまたまあったのが自分の指だったのかもしれません。私は、もっと踏み込んで、結婚指輪を眺めたのではないかと推察します。どんな恋?…旦那との恋を思い出したのかもしれません。

 ここが私の故郷だ、と言っているのは誰か。主人公の30代男性です。お前帰ってきたのか、と言っているのは誰か。おそらくは、近所に住む幼馴染みの友人でしょうか。設定がはっきりしてきました。30代の男性は、仕事で遠方に出ていて、久しぶりに実家へ帰省したのでしょう。もちろん、帰省したのは今回が初めてではありません。しかし今回の帰省では、古いアルバムを眺めていたことから、故郷ということを強く思うに至った、ということだと思います。

 落ち葉を焚くわけですから、季節は「秋」です。どこかの家で「お帰りなさい」という声が聞こえてくるということは夕方です。

 3年前に父が他界したようです。母親が、父親の古い写真を見つけたようです。昨日、主人公の男性がアルバムを開けて、母の古い写真を見つけたので、今日、母親が古いアルバムを開いたのでしょう。「こんなものが出てきた」というわけですから、アルバムそのものではなく、その周辺に直していた、手紙か何かだと思います。そこに20歳の時の父親の写真が入っていたのです。この母親の言葉「お前だんだん似てきた」は、前半の男性の言葉「どんな恋してきたのか」に対応しています。母親は父親との思い出に浸っていて、ふとその影を息子に見出したのです。

 変わっていくというのは、さびしいことです。子どもの頃に見た風景と同じものを見たとしても、その印象や感動は全く違う。変わったのは自分です。子どもの時の気持ちや想いをしだいに忘れていっているのです。

 この最後の一文「お前なにしに帰ってきたの?」は、一見冷たい言葉のように見えますが、これは、おそらくは、明確な目的や理由がなく、実家に帰ってきたということです。母親が病気になったとか、そういう理由ではないということです。仕事の休みがとれたとか、たまたま暇が出来たといった理由で実家にふらっと帰ってきたのです。そして、古いアルバムを眺めて、うろうろしているのです。目的がなくても、ふらっと帰ってきて、思い出すもの。それが「故郷」ということなのでしょう。「あ、そうか、これが故郷というものか」と、思う。そんな感覚です。長い時間人生を経験してきて、ふと振り返った時の、その原点の風景、それが山だったり河だったり、近くの公園だったり、あるいは人だったり、雰囲気だったり、音楽だったり、声だったり、思い出だったり、それらをまとめて「故郷」と呼ぶのだと思います。あらゆる時間の流れが一気に、雪崩のように押し寄せてくる。わあっと涙が出てきます。さびしいような、あたたかいような、そんな不思議な曲調の、何か深い感動のある曲です。
 この曲のタイトル「人生の秋に」というのは、どういう意味でしょうか?おそらく人生を季節に例えるならば、思春期は春、青年から中年にかけては夏、そして50過ぎ、そろそろおじいちゃんおばあちゃんという時期は秋、ということになるでしょう。夢に向かって努力する時代ではなく、がむしゃらに生きている時代ではなく、懸命に生活している時代ではなく、落ち着いて昔のことを振り返る時代、それまで蓄積してきたことを思い返しながら昔を懐かしむ時代、それが人生の秋であり、その母の姿を、秋の季節に重ね合わせて、しみじみと歌っている、そんな曲だと思います。(1985年作品、アルバム『風に聞いた話』所収)
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Posted on 2013/10/13 Sun. 21:21 [edit]

category: 音楽

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