『もりにいちばができる』感想  

(作・絵:五味 太郎、玉川大学出版部、2008年)自分のためだけに生産するよりは生産物を交換した方が全体としては豊かになる、という経済の仕組みを描いた絵本。まるでアダムスミスだ。ただし経済の仕組みが浮き彫りになればなるほど、読者には問題点も見えてくる。バナナの木の所有は正当か。永遠に働き続けなければならないのか。需要と供給のバランスが崩れることもある。本書では貨幣が描かれていないが、もしこの世界に貨幣が登場すれば貧富の差となるであろう。本書は経済の基本を説明しているように見せかけながら、資本主義の問題点を批判し、それを読者に考えさせようとしていると思う
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 「あるところに、りっぱな ぶどうのきを もっている きつねが いた。」いつもそのおいしいぶどうを食べていました。そこへたぬきがやってきて、「ぼくもたべたいなあ」と言いました。ちょっともったいない気もしましたが、ひとふさ、あげることにしました。翌日、そのお礼にたぬきがりんごを持ってきてくれました。よく考えたきつねは、じぶんのぶどうをみんなにプレゼントしました。すると次の日、みんながお礼の品物を持ってきてくれました。他の動物たちも、影響されていきます。きつねはぶどう、さるはバナナうさぎはいちごくまはさかなを売っていきます。お店が増えていき、森の中に市場が出来ました。「きつねは ぶどうをあげるかわりに にわとりに おまんじゅうを もらった。 くまは ひつじに さかなをあげて セーターをもらった。」よくみると物々交換です。きつねはぶどうの手入れが大変。うさぎは前よりもいっそうはりきって いちごあつめに走り回りました。そして遠くから他の動物たちがやってきました。「だから いちばは どんどん おおきくなる。 ますます にぎやかになる。 そして とても べんりになる。」
 さて。この絵本のポイントは、自分のためだけに富を独占するよりは、富を交換し、富を生産する方が、全体としては豊かになる、ということを示しています。まるでアダム・スミスの『国富論』です。しかしこの絵本は、ただ、それだけのための絵本ではないように思えます。ここで描かれるモデルを使って、現実の複雑な経済システム、あるいは格差が拡大しつつある現在の問題点を考えるという、そんな絵本だと思います。いくつかの点に整理してみましょう。
 第一に、「所有」についてです。きつねが、ぶどうの木を所有しているということは、どうやって正当化されたのでしょうか?きつねがぶどうの木を所有していて、さるがバナナの木を所有しているというのが前提になっていますが、その前提はどうやって決めたのでしょうか?必ずしも、ぶどうがきつねの所有物であるという根拠は、ありません。きつねがこのぶどうの木は俺のものだ、と主張したならば、他の動物が「え?そんなこと聞いてないよ、なんで???」というふうに異議を申し立てる、はずです。だとすれば、ここで描かれているのは理想的な世界であって、現実は所有の主張しあい、あるいは奪い合いが起こるはずです。特に地球という点で限界があるわけですから、必然的に領土の奪い合いが起こります。最も乱暴な人が、広い領土を獲得するでしょうし、最も頭のきれる人が、自分の正当性を主張するでしょう。
 第二に、「消費」についてです。物々交換がどんどん発展していくと書かれてありますが、発展には限界があります。というのも、きつねは、バナナやさかなやいちごをもらっても、そんなに食べきれないからです。自分のところでたくさんぶどうを作ったとしても、必要なものに限界があるわけですから、ぶどうを作りすぎると「余る」あるいは欲しいものがたくさん出てきたとしても、生産する能力に限界があるわけですから、例えば不作だったりすると、「困る」この絵本で示されていることは、ある程度まではうまくいきますが、ある程度を越えると、うまくいかなくなってしまいます。争いや対立を生みやすい。
 さて、第三です。この絵本、「経済の基本をわかりやすく説く」絵本と表記されていますが、経済の基本の基本、最も重要なものが描かれていません。それは「お金」です。で、これは、五味太郎が忘れていたのではなく、意図的にお金を外したのではないかというのが、ごんたろうのとらえ方です。お金は、物々交換から発展して便利なものとして登場するわけではないようです。いわゆる全く役に立たないけれども神秘的で美しいもの、それが貨幣の起源だそうです。(佐伯啓思著『経済学の犯罪』講談社現代新書、2012年、第7章)物々交換であれば、自然と劣化していき、使えないもの、食べられないものになってしまいます。しかしお金は別です。劣化しないので、貯蓄が可能なのです。
 もし、この絵本で描かれる世界に「お金」が登場したとすれば、どうなるでしょうか?まずは、たくさん余ってしまえば、一個の値段は安くなり、不作で少なければ、一個の値段は高くなる。必要以上のものを大量に生産して、大量に売りさばいた者は、大量のお金を手にすることができる。こうして、最も効率的にお金を貯蓄する者と、そうでない者とに分かれていくはずです。うまーく貯蓄する者は、お金で、相手の所有物すべてを購入していき、どんどん財産を増やしていきます。そうでない他の動物たちは、働いてお金を稼ぐということしなければなりません。一生懸命に苦しい思いをしながら稼いでも、もらうお金は少し。食べるものも、住む場所もなくなり、生活できなくなってしまいます。おそらく、五味太郎はそういうことをよく知った上で、わざとお金を描かなかったのだろうと思います。もし、物々交換の段階、お金が無いのであれば、そこまで経済は発展しないのだけれども、人々の生活はそこまで壊れるわけではない。お金をめぐって人々が動くために、何かが狂ってしまう。それを五味太郎は主張したかったのではないかと思います。以上のように、この絵本はたんに経済の基本を説明しているだけでなく、現実がいかに複雑で、いかにうまくいかないかを、よーく考えるための、きっかけを提供しているように思えます。
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Posted on 2013/09/02 Mon. 23:06 [edit]

category:   2) 商売と市場

tb: 0   cm: 2

コメント

コメントありがとうございます。

しぃさま。ありがとうございます。なかなか更新が遅れることもありますが、頑張ります。今後もいろいろなコメントをお待ちしております。しみじみしていただけると嬉しいです。

URL | ごんたろう #79D/WHSg
2013/09/13 23:43 | edit

絵本の魅力

はじめまして☆
ごんたろうさんの絵本の紹介や解説を読んでいたら、実際の絵本がとても読んでみたくなります♪
絵本はなんだか好きだな-ほっこりするな-というようなぼんやりした気持ちでしか読んでいなかったですが
奥が深く、大人が考えさせられることがたくさんあるのだなとしみじみしました(´⌒`。)
これからも楽しみにしています♪
そして過去のもゆっくりですが
さかのぼらさせていただきます(o^^o)

URL | しぃ #79D/WHSg
2013/09/12 22:55 | edit

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