『ふうせんクジラ』感想  

(作・絵:わたなべ ゆういち、佼成出版社、1989年)街ではお祭り。クジラのボンが風船を食べると、ぷかぷかと浮いてしまう。ふうせんクジラは、農場や街並み、道路やビルを見下ろしながらゆっくり移動する。サッカー場でゆっくり降りると、人々が集まる。クレーンやトレーラー等で大行進。警察が誘導し、ボンは海へと帰っていく。巨大なクジラと小さな人間、重さと軽さ、高さと低さ等、様々なスケールの違いが描かれる。一人ひとりの表情や振舞いは個性的であり、それを全体で見渡せば社会や国家が見えてくる。クジラ輸送作戦を通して人々の気持ちは一つとなり、みなで大きな感動を得ることができる。
 クジラは最大の哺乳類です。巨大な生物が生物として生きていけるのは、海の中だからです。陸に上がってしまえば、浮力がかからないために、身体はぐちゃぐちゃになってしまうでしょう。この絵本は、もしその巨大なクジラが、陸に上がったら、空に浮かんだら、という設定で語られます。くじらが大海を元気よく泳いでいます。「そらも うみも きらきら ひかっています。 クジラの ボンは きょうも かあさんクジラと さんぽです。」港に近づくと、いつもと様子が違います。今日はお祭りの日でした。パレードで、みんな踊っています。そこにはたくさんの風船がありました。赤、青、黄色、緑、ピンク、オレンジ、です。とってもおいしそうです。クジラのボンは、風船を一つ口に入れてみまっした。ぱくりぱくり港の人々は大喜びでした。全て食べてしまう頃には、ボンのからだは、ぷかぷか、浮いてしまいました。港の人々は叫びました。「ふうせんクジラだ!」そら高く、舞い上がってしまいました。「うみしか しらない ボンの めに、 あたらしい せかいが ひろがります。」広い農場街並みバスや車ビルちょうどサッカー場の上空にさしかかった頃、サッカーボールがおなかに当たり、くちからたくさんのふうせんが出てしまいました。「ボンは ゆらゆらと サッカーじょうに おちていきました。」人々が集まり、クジラを海へ返す大仕事の始まりです。クレーン車が三台トレーラー車が六台パトカーと白バイに乗せられて、大行進です!かあさんクジラの待つ、港へ到着です!
 さて。ごんたろうがこの絵本から感じるテーマは、「スケール」です。クジラの絵を見せられて、これが巨大であることを告げられても、なかなかその巨大さは伝わりません。しかし、それと比べることができる対象物があれば、クジラの巨大さは伝わります。この絵本では、港や人々を描くことでそれに成功しています。1人の人間が小さく小さく描かれている。私たちは、「人間が小さい」と感じるのではなく、「クジラが大きい」ととらえます。当たり前のように思えますが、結構複雑です。それが可能であるのは、私たちには、視点を移動するという能力が備わっているからです。人間が小さく描かれているということは、すなわち人間が遠くにいるということです。高い地点に立ち、全体を見渡している、というふうにとらえます。そして私たちは、「もし自分がこの人間だったらなあ」ととらえ、「さぞかし巨大なクジラだろうなあ」と感じます。
 目の前にあるのが紙の束で、そこにインクがあるというとらえ方では、感動はありません。想像力がゆえに感動があるのです。よく見ると、そこに描かれている人々の一人ひとりの表情や振る舞い、服装や動作が、微妙に違うのが分かります。この絵本で描かれているのは、港、港町、農村、ベッドタウン居住地域そして都市です。後半では、とてつもなく高い地点にまで上昇したクジラの視点から、人々の様子や街の様子をとらえるという場面になります。「高い」という概念がよく表現されています。このような高い地点、巨大なものを一望する地点、大きな目という地点、そこから見えてくるのは、国、地域、社会といったものです。それは、一個の物体でも、記号でもなく、たくさんのものの集合体です。様々な人間や様々な生活、様々な意見があります。ふだんの生活をしている上では、なかなか一つにはまとまりません。
 そんなある日、巨大なクジラが降ってきた。クジラを海へ返してあげよう。そんな優しさから、人々が協力連携して、大作戦の開始です。そして人々はクジラを輸送し、それに成功するというイベントを見ながら、自分たちが一つの社会、一つの国家であるということを実感するのだと思います。作業をしている人々は真剣そうです。しかしそれを見るために集まった人々は、まるでお祭りのように、楽しそうです。「なんだなんだ」「すっげー」たくさんの人々が集まって、大騒ぎしている。それだけで楽しそうです。人々の視線は、巨大なクジラにくぎ付けです。このお祭りがお祭りではなく、真剣勝負になった時(すなわち戦争)悲劇になってしまいます。そんなことを示唆してくれる絵本です。
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Posted on 2013/08/24 Sat. 10:48 [edit]

category:   3) 個性と役割分担

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