『かちかちやま』感想  

(絵:赤羽末吉、再話:小澤俊夫、福音館書店、1988年)狸の策略で、じいさまがばあさまを食べてしまう。その様子は一見すると残酷であるが、これは食うか食われるかの命がけの世界での話であり、人間が自然や野生と戦う話である。狸は狸であって人間ではないので、狸に共感する必要はない。本書に道徳教育を求めるべきではない。前半で狸がしっかり残酷なことをしているから、後半における兎の復讐がカッコよく見える。恐怖を乗り越えるヒーロー物語として読もう。ただし敵は手ごわい。兎は正面からぶつかれば負けるかもしれない。狸を欺き、隙をついて相手を殺す。知恵では兎が上だ。まさに必殺仕事人。

 昔話です。おじいさんが、たぬきをつかまえました。とても悪そうなたぬきです。イタズラたぬきです。「たぬき汁にしよう」とじいさんは言います。再びじいさんが帰ってくると、すでに、おばあさんがたぬき汁を用意して待っていました。さっそく食べるとなにか変です。ばあさんのにおいがします。????目の前にいたのはばあさんではなく、たぬきでした。たぬきは、おばあさんを殺して、その肉でたぬき汁を作り、ばあさんに化けていたのでした。たぬきの罠だったのです。昔話には、このような毒々しいものが少なくありません。このような話を、夜、子どもたちが布団に入ってゆっくり聞かせてみましょう。普段元気でやんちゃな子どもは、このような怖い話を聞いて寝られなくなるかもしれません。
 さて、昔話の後半です。ことの一部始終を聞いたのはウサギでした。ウサギは仇を打つことにしました。まさに必殺仕事人です。ウサギは、たぬきを見つけると友達のように語りかけて、罠にはめて火をつけます。かや(ススキ)を背負っているたぬきに対して背後から近づいて、火を付けます。「かちかちとは何の音だ?」うさぎは「かちかちどりのなきごえさ」といってごまかします。たぬきの背中が燃えてしまい、大慌てで逃げていきます。次に再びたぬきがウサギを見つけます。「あのときは、よくも!!!」と言います。ウサギは「うさぎだってひといろじゃないんだぞ」と言い放ち、「そいつは、おれじゃないさ」と言います。たぬきが安心したところ、またもや不意打ちです。トウガラシを背中に塗ったり、泥で出来た船に乗せたりしながら、懲らしめ、そして殺します。なんともすさまじい話です。
 絵本は、昔話の本質を、その雰囲気まで丁寧に再現していると思います。前半のたぬきの酷い行動があり、後半のウサギの仇討ちがあります。両方がセットになって展開しているのです。(もともとは別の話だったという説もあります)ところが近年の子ども向けアニメ絵本を見ますと、全く別の話になっています。(柿沢美浩、水端せり、難波高司、『日本昔ばなりアニメ絵本、かちかち山』永岡書店、2002年)

 この絵本では、たぬきは、おばあさんを突き飛ばします。おばあさんはこしを痛めて、寝込んでしまいます。イタズラなのは確かなのですが、それほど悪いことはしていません。おばあさんは死んでもいません。にもかかわらず、ウサギは仇討ちをするのです。ウサギの行動原理は、説得的ではありません。たぬきは「二度と悪いことはしないよー」と言いながら逃げてしまいます。誰も死にません。おそらく子ども向けに優しい話に変更したと思われます。人物をアニメのキャラのように描いてしまうがゆえに、殺したり殺されたりといったことが描きにくいのかもしれません。これでは話自体が全く別モノと言うべきでしょう。話はやわらかなものになっているのですが、これでは原作の面白味が失われてしまいます。ウサギは「イタズラはやめなよ」と言っている優等生です。道徳の副読本のようになってしまっているのです。わたしは、このアニメ絵本そのものを否定しているのではありません。これが原作とは全く別のモノになっていると考えたいのです。
 残酷なシーンはなぜ有害なのでしょうか。おそらくそれは子どもの想像力の範囲を超えて刺激的なイメージを与えてしまうからでしょう。血が吹き出たり、肉が飛び散ったりするような映像は、子どもたちに見せるべきではありません。その映像だけが脳裏にこびりついて、必要以上に不安にさせるからです。ところが昔話として話を聞かせるのであれば、子どもは自分の頭の中で組み合わせていきます。それは想像できる範囲ですから、深刻なダメージを与えるとはとても考えられません。昔話で描かれているのは『かちかちやま』に限らず、人物が残酷なことをしたということを賛美しているのではなく、それをなんとかして批判し、幸せな世界を取り戻そうとしているわけですから、ここには有害の要素は無いと思います。子どもは天使ではありません。かといって悪魔でもありません。暴力的で、自己中心的で、甘えん坊で、繊細な存在です。そしてそういう子どもたちを優しく引き寄せてこちらの世界にとどめておかなければなりません。残酷な昔話は、子どもの心の底にブルブル伝わるような話をして、こちらの暖かな世界の中に引き入れようとする先人の知恵ではないでしょうか。また、もう少し大きくなった子どもは恐怖心を楽しむようになります。大人たちが、殺人、サスペンス、対立、復讐などをテーマにした映画やドラマが好きなように、そういう物語を魅力的に感じている子どももいると思います。「和」の世界を堪能するのにぴったりな絵本です。
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Posted on 2011/11/09 Wed. 21:48 [edit]

category:   1) 脅威と戦う

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

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