『火垂るの墓』感想  

1.
 わたしはこの映画を高く評価できません。あまりにも高い評価が多すぎるので、わたしの感想を書いてみます。以下の文章はそのような立場からの意見ですので、賛否両論を含んだ上での正統な評価ではないかもしれません。ご了承ください。話の中身は単純です。第二次世界大戦当時、神戸。節子(4歳)と清太(14歳)が親戚の家に預けられ、そこでは居心地が悪いので家出をして野宿生活を始める。病気になって、誰にも助けられずに、死んでいく。多くの人々はこの映画を見て泣きます。勿論、わたしも泣きました。「泣く映画」=「最高の映画」とするならば、この映画は最高の映画だということになるでしょう。
2.
 まず、この映画は、戦争を描いているのでしょうか?子どもたちが誰を頼ることもできずに、飢えと病気で死んでいく。この状況を作り出した原因が戦争であることは間違いありませんが、では戦争を描いているかというとそうではありません。戦時中の様子を描いていることには間違いありませんが、戦争を描いているわけではありません。少なくとも戦争映画であるならば、鉄砲や戦車で人を殺すということがテーマとして挙げられていなければなりません。ワガママな少年が、誰からも助けられずに死んでいくという話です。子どもなら誰でももっているワガママ、プライド、自分でやっていけるという根拠なき自信。それを描いているのです。家出をした少女が家に帰れずに体を売ってしまうのと同じような構造です。このようなことは、現代社会でも起こり得ることです。モノが溢れ、グローバリズムが進んだ現代社会でも貧困があります。(北朝鮮ではこのようなことはよく起こっているのではないでしょうか?)この映画を取り上げて戦争映画であるとか、反戦映画であるという分析は、適当ではありません。制作者側も反戦映画ではないことを認めているようなのですが、この映画を取り上げて戦争と平和を論じる人はなぜか多いのです。
3.
 この映画を批判的に評価する人は、主として清太の生きざまを批判します。確かに謝らずにワガママを貫き通そうとしたという点を批判したくなる気持ちは分かりますが、それは最も人間らしい姿だと思います。人間らしさを描いているのに、その人間の生き方が気にいらないからといって、それを映画の批評とすることはできません。この映画は、清太の「いきざま」を描いているという点では評価すべきです。清太は、謝ることもできずに自分と自分の妹を不幸へと導いてしまいます。それは、最も子どもらしい、素直な心境だと思います。わたしがこの映画の登場人物であれば、「命を大切にしろ」と彼を叱りつけるかもしれません。しかしわたしたちはこの映画の鑑賞者です。彼の心境はよく分かります。また清太の生きざまを、当時の日本帝国に重ねるのは無理があります。強がっていた点は、そっくりですが、清太は、お国のために、あるいは社会のために自己犠牲したわけではありません。ちょっとへそまがりの男の子なだけなのです。登場人物の誰かに同情し、誰かに批判的であるということは、映画そのものの批判になはなりません。清太の描き方については、わたしはこの映画を評価します。
4.
 わたしが最も問題視するのは、節子です。節子は、まるで天使のように描かれています。あまりにもかわいらしく、美しく、明るく、純粋な子どもとして描かれているのです。極めて抽象的で、極めてアイドル的な描き方をしているのです。それゆえ映画を見た人は、清太に対しては「自業自得だろ」と思い、節子に対しては「かわいそう」と思うのです。本来の子どもはもっとワガママであってよいし、悪口を言ったり、甘えたりするものです。特に幼児であれば泣いたり騒いだりするはずです。4歳の節子は、清太のこを考え、節子なりに我慢しているとも言えるでしょうが、それにしても節子は、あまりにも綺麗に描かれています。子どもの中の美しい部分だけを誇張して描かれています。(節子が登場すると、そこだけ『トトロ』になってしまうのです。)それはなぜか?その後にゆっくり死へ向かっていくプロセスを悲しく見せるためです。演出です。壊れゆくものを悲しませるために、あらかじめ美しいものを設定するのです。『フランダースの犬』も『世界の中心で愛を・・』も、同じ構造です。やつれていき、病気で苦しそうな表情を見せて、死んでいく。破壊の美学?これは「生きざま」ではなく、「死にざま」です。制作者はわたしたちにこのようなメッセージを投げかけています。さあ、このシーンは泣けるだろ?まだ泣かないのか?では、このシーンはどうだ?悲しいだろ?泣けよ!こんなかわいい子が病気になっていくんだぞ。誰も助けてくれないんだぞ。このシーンを見たらさすがにかわいそうになるだろ?さあ!さあ!この映画は、見ている人、かなり大勢の人間を、一度に、一斉に、泣かせたいのです。様々な境遇にある人々、多様な人生を送っている人々を、とにかく一斉に、泣かせたいのです。そのための演出が徹底しているのです。例えば、一匹の犬が死んでも、「泣く人」と「泣かない人」がいます。みんなを泣かせるためには、犬が美しい存在であることを演出しなければなりません。こういうのを感動の押し売りといいます。ちなみに実写版がいまいち感動しないのは、抽象的な美しさが描けないからです。見ている人は、あれが「せつこ」ではなく、「子役タレント」だと分かってしまうからです。アニメだからこそ抽象的な世界で死を美化できるのです。
5.
 戦争は多くの飢餓や貧困を生む、ということは想像に難くありません。これが事実であるとするならば、それを知ることは大切です。これをドキュメンタリー映画にするならば、支持します。これを短編小説にして、販売し、読んだ者が小説の世界に入るだけならば、それは支持します。問題は、それを映画にして、大勢で鑑賞させ、90分の時間を共有させようとする制作者・企画者にあります。この映画を素晴らしい映画だとして評価し、他者に勧めようとする者。実写化して、8月に放送しようとする者。彼らは、「美しいものが壊れるさまを、みんなで見ようよ!」と言っているのです。何度も何度もテレビの中でせつこは悲鳴を上げています。戦争が節子を殺しているのではなく、死にざまを見たいと思っている人々が、節子を殺しているのです。魔女裁判?いじめ?
6.
 わたしの評価は、そもそも「良い映画とは何か」という観点が大きくかかわってきます。人間の心の中の、複雑で微妙な心境、様々な境遇で見せる人間らしさ、それを見ている人の心に伝え、感動させるのが素晴らしい映画だと思います。そして感動した受け手は、そこから人生や社会を改めて見つめたり、思考を巡らせたりできす。作品を見た後に、未来が開けてくるような映画こそ、素晴らしい映画です。しかしこの映画を見終わった後で得るものは、「あんなかわいい少女が死んでしまってかわいそうだ」ということです。この映画を見た感動とは、大きくて重いのですが、深くはありません。量的には大きいのですが、質は薄っぺらです。美しいものが、傷つき、誰からも見捨てられ、死んでいく。そのことを、手を変え、品を変えて、描いていく。美しいものを出しておいて、少しずつ、じわりじわりと殺していく。そのように示している(=殺している)のは、制作者です。極めて単純な図式を徹底化させて感動を押し売りしようとするこの映画は、完成度の低い映画だとわたしは思います。7.「戦争の悲惨さ」とは何でしょうか?それは、美しいものが死んでいくことでしょうか?わたしはそうは思いません。悲しい出来事というだけで戦争の悲惨さと結び付けてはいけません。多様な人間、様々な個性、出会いと葛藤、喜びと悲しみ、様々な人間模様が、一気に画一化され、目的化され、一瞬でみんな死んでしまうという点にあります。一人の少女が死んだことをじっくり悲しむ余裕すらないのが戦争です。だから悲惨なのです。美しいものが死んでいくさまをこれでもかと見せられて、それを戦争の悲惨さだとは受け止められません。同じことは、『かわいそうなぞう』『ちいちゃんのかげおくり』『おこりじぞう』等にも言えます。8.公開した時には『トトロ』と同時上映でした。『トトロ』を見てノスタルジックに浸って感動している人々を、ショックで苦しめたいという、ブラックユーモアであるとするならば、それならばわたしは文句は言いません。(1988年公開、東宝)▲
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Posted on 2011/11/03 Thu. 21:59 [edit]

category: アニメ・特撮

thread: 映画感想 - janre: 映画

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コメント

いつもありがとうございます。

ベラスケスさん。コメントありがとうございます。この映画では、一見すると節子の方に目が向いてしまいますが、リアリティを持って描いているのは清太の方ですね。清太の視点から、清太の気持ちを描いた作品というふうに考えれば、素直に評価できると思います。

ごんたろうのブログは、若干一方的なところもありますが、今後も宜しくお願いします。



ベラスケスさんは長女ですね。ごんたろうも長男です。

URL | ごんたろう #79D/WHSg
2013/04/25 05:57 | edit

贖罪

この作品の主人公の兄は、野坂氏です。

自身の戦争体験を元に書かれた作品です。

私も何度も見ました。

私は4人兄弟の長女なので、彼らを弟と妹として見てしまい、身もこころも張り裂けそうな想いに駆られてしまいます。

14歳の男の子なら、ああいう選択も仕方なかっただろうと思います。

これが姉妹なら、また展開が違ってくるかと思いますが、これは、1歳半で亡くなった妹に、もっと尽くしてやりたかったという野坂氏の悔恨の念が込められているのです。

不器用ながらも、彼なりに妹を護り抜いたのだと思います。

URL | ベラスケス #79D/WHSg
2013/04/24 01:03 | edit

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