『はなをくんくん』感想  

(文:ルース・クラウス、絵:マーク・シーモント、訳:木島始、福音館書店、1967年)雪が深い静かな森の中。冬眠中の動物たちが目をさます。何かの匂いに引き寄せられる。くま、りす、のねずみたち。モノクロの世界の中で黄色い小さな花が咲いたのだ。コントラストが美しい。まもなく冷たく暗い冬が終わる。それを想って歓喜に湧く。私達は真冬でも暖房で春のような生活をしている。凍え死ぬことも食糧が尽きることもない。そのくせ桜が満開になれば酒を飲んで騒ぐ。私達は、もはや季節を感じていないのかもしれない。本書は感動や喜びの本当の姿を描いている。私達の現代社会は、煌びやかなものが溢れているがゆえに、感動が薄い。


 表紙はモノクロの絵です。くま、りす、やまねずみ、のねずみたちが、楽しそうに踊っています。なぜ?その答えは最後のページにあります。雪が降っています。ねずみやくまたちは深い眠りについています。ところが、みんながめをさまします。はなを、くんくんたくさんの動物たちが動き出します。まだ雪が降っています。一斉に多くの動物たちが走り出します。何があったのでしょうか?何かをみつけて、大喜び。わらう。おどりだす。何を見つけたのでしょうか。
 さて。満員電車は、人々の匂いがごちゃまぜになって、酷い状況です。とても人間的な空間ではありません。まるで人間を荷物のように扱っています。私たち人間は、本来、匂いをかぎ分けるような力があったと思うのです。イヤホンで耳を塞ぎ、マスクで口と鼻を塞ぎ、携帯電話で目を塞ぎ、小さな小さな個人という身体になって、電車に乗ります。仕方のないことなのかもしれません。(私もそうします。)都市的生活の中で、自然の変化を感じ取る力を忘れてしまっているのかもしれません。お花見の季節になると、あちこちで宴会が始まります。宴会をしたくなる気持ちは分かりますが、あの風景は見たくありません。せっかくの桜が台無しです。桜が満開ということで、人々の意識的リミッターが解除され、狂ったように騒ぎ出す。というのは、分からないわけではないのですが。小さな小さな変化には見向きもしないくせに、満開の狂ったような雰囲気だけに引き寄せられていく。そんな単純な姿には、あまり共感できません。昔のテレビの天気予報番組は、気温とか風の状態を客観的科学的に報告するようなものが多かったのですが、最近の天気予報は、服装や体感温度などを、季節を感じさせるようなものが多いように思えます。これはとても良いことだと思います。
 最後の最後。この絵本の最後のページには、小さな黄色い花が咲いています。一面はモノクロの景色。今なお深い雪の世界なのですが、この花だけは光り輝いてみえます。動物たちは、この一本の花から、まもなく訪れるあたたかな春を思いめぐらしながら、楽しく踊っているのです。なぜ、この花が、ピンクでも、赤でも、白でもなく、黄色なのでしょうか?おそらくそれは、光を表現しているからだと思います。暗くて冷たい長い冬の季節が終わり、次に光り輝くあたたかい季節がやってくる。本当は白い花だったとしても、動物たちには光り輝く黄色に見えるのだと思います。もうこれで、こごえて死ぬこともない。もうこれで、食べ物が無くなって困ることもない。そんな希望の光です。
 この絵本は、全編モノクロで描かれている中に、一点だけ黄色い花が咲いています。長い時間、白と黒だけで深い森林の世界を描いておき、最後の最後に光輝く黄色が描く。そのコントラストがよく表現されていると思います。色の美しさを人々に伝えるためには、どうすればよいでしょうか?黄色をずらりと並べて、これでもかというくらいに黄色を見せる。たぶん、それでは黄色の美しさは全く伝わりません。昔『シンドラーのリスト』で、ほぼ全てにわたって白黒の映画を見ました。一部、血の色が赤く染まっていたのを思い出します。また、この絵本から、私は「音」を感じます。しんしんと降り積もる雪。全く無音で、自分自身の身体の音しか聞こえてこないような、そんな世界から、動物たちが集まり、楽しく騒いでいくような、その賑やかな世界へ。そのコントラストも、良く表現されていると思います。古典的な名作絵本だと思います。映画というメディアは、後半に最も感動を得るように、前半が冗長な展開になります。そこをサスペンスにして見る人を引き付けておくことが多いようです。しかしテレビは、全てがCMのようなものですから、常にクライマックスを見せようとするのです。仕方のないことのように見えますが、結局は感動が薄れてしまうのです。現代の都市的生活は、いわば毎日がお祭りのようです。毎日の生活をクライマックスにしてしまうことで、結局わたしたちは、静かな変化を感じ取る力を失い、クライマックスそのものを心から感動する力を失う。そんなふうに思ったりします。
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Posted on 2013/03/27 Wed. 19:32 [edit]

category:   1) 季節の変化

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

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