『パパ・カレー』感想  

(作・絵:武田美穂、ほるぷ出版、2011年)この絵本をニコニコしながら眺めることが出来るのは父親との関係が良好な人であろう。おなかは空いている。食材も味付けもよい。しかし父親との関係がぎくしゃくしていれば素直に食べることが出来ず、食べたとしても「おいしいね!」とは言いにくい。わたしたちは料理を食べるのではなく、相手との関係性を一緒に食べるのである。大雑把に作るところを見ると「かあさんのカレーより美味いだろ?」等と言ってそうである。子どもが「バナナはやめて」といっても強引に入れてしまう。カレーは美味しそうなのだが、複雑な心境になるのは私だけ?
 素敵な女性からいただいたチョコはおいしい。おごってもらった料理はおいしい。おごってもらうというのは、「相手の広い心を分けてもらう」ということである。それゆえ、嫌いな人からは「おごってもらいたくない」とさえ思う。味とは、たんなる味覚ではなく、相手との関係を食べるのだ。
 さて、今回取り上げたいのは、おいしいカレーをパパが作ってくれた、という内容の絵本である。表紙にはおいしそうなカレーが描かれる。「きょうのカレーはパパがつくる」青いエプロン。ぎゅうにくを切り、たまねぎ、にんじん、じゃがいも、そして、にんにく、しょうが、そして、隠し味に「バナナ!」一つひとつの手順が細かく描かれる。「これが、パパ・カレー!」ゴツゴツした大きな手で、小さな野菜を切っているシーンを見て、何を思うだろうか?素敵なパパ? 力強い、男らしい作り方? 元気で、明るくて、さわやかな父親?
 私は違うものをイメージする。お父さんが「よーし、今日はパパがカレーを作るぞ!」と意気込んでいる。まず、お母さんの立場で考えてみよう。お母さんが「ありがとう、とっても助かったわ」と感謝するような話ではない。単純に手伝ってくれてありがとうという話ではない。お母さんがやっているのは、いわば日常的な労働としての食事である。いつもの風景は、お父さんは、深く感動するわけもなく、深く感謝するわけでもなく、おなかがすいたから、もくもくと食べている。(そんな風景)お父さんからすれば、「いつもとは違う、特別メニューを作るぞ」ということになる。それは少し、お母さんの日常の料理を「下」に位置づけてしまう。お母さんの料理は「日常」、お父さんの料理は「非日常」という位置づけである。もしこれが成功してお父さんの料理はうまいということになってしまえば、お母さんの立場は、どうなるのか?毎日、お父さんがやってくれるわけではない。手伝ってくれるのは嬉しいのだが、どちらかといえば、片付けとか、ゴミを散らかさないとか、そういう配慮をしてくれたり、「いつも、ありがとう」等と声をかけてくれる方がうれしいはずだ。お母さんの立場からすれば、巨大な肉がゴロゴロしていて、味も辛いというカレーは、ちょっと苦手でもあろう。
 次に、子どもの立場で考えてみよう。子どもは毎日お母さんの料理を食べる。今回はお父さんが料理を作る。お父さんがどういう人間なのか。それをイメージしながら食べることになるであろう。理想的な父親像とは、遊んでくれる父、叱ってくれる父である。その父親がカレーを作ってくれたとなれば、複雑な心境になってしまう。「ちゃんと、手、洗った?」みたいなことが気になってしまう。私たちはいつも料理を、愛情のような人間性と一緒に食べているのである。
 さて、父親の心境を想像してみよう。おそらく、父親としては、「おとうさんのカレーは、とても、おいしい!」と言って欲しい。褒めて欲しい。しかしそんなふうにならない。子どもたちは、それほど感動してはくれない。お母さんも、期待していたほどに感動してくれない。なぜか中途半端な反応である。最後のページに子どもが登場する。子どもは「いただきまーす!」と言っている。そして「だいせいこう!」と書いてある。「おいしい!」とか「ありがとう!」ではなく、「だいせいこう!」である。だいせいこうという言葉は、父親の心の声なのかもしれない。
 以上の全ての状況を踏まえて、さて、再び、子どもの立場で、じっくりこの表紙のカレーを見てみる。さあ、食べて!おいしそうでしょ!高いテンションで、見せられるカレーしかし、家族の人間関係の難しさが一気に出てしまう。騒いだり、喜んだり、大笑いしたいのに、それが自然とは出来ない。恥ずかしい。父親のために、演技で大喜びしてあげると、たぶん、父は喜ぶ。しかしそれをするような気にもなれない。父親のやろうとしていることと、受け手側とのズレ。
 この絵本は、パパが登場しない。料理だけである。描いていないからこそ、読者の父親がイメージされる。目と鼻と舌は、料理の方を向いているのに、浮かび上がるのは、家族の人間関係の方だ。おそらく、作者は、そのようなことまで計算?して、この絵本を作成したと思われる。そう思うと、この絵本はとてつもなくインパクトのある深い絵本だと言えよう。
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Posted on 2013/03/27 Wed. 19:30 [edit]

category:   4) 父親の存在

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

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