『おこる』感想  

(作:中川ひろたか、絵:長谷川義史、金の星社、2008年)子どもはよく怒られる。「なぜ自分は怒られるのか」という問いは、怒られたくないという不満から来る。寝坊、ピーマン残す、兄弟げんか、宿題忘れ、様々な場面を思い出す。怒られるのは嫌だ。私達は怒られないように生きようとする。結果的に孤独な人生を目指してしまう。本書の主人公は、その先へ目を向ける。「なぜ人は怒るのだろうか」…その問いは哲学的探究だ。よく考えれば自分だって怒ることがある。怒るのは「こうありたい」「こうなってほしい」という気持ちがあるからだ。かかわろうという気持ちは大切。ただし怒っても気持ちは晴れない。
 表紙の裏に、こんな文があります。「まいにち おこられてばかりの ぼく なんで ぼくはおこられるんだろう なんで ひとはおこるんだろう」とあります。なぜ、僕は怒られるのか?という問いは、自分中心の問いです。怒られたくないから、なんで?と問いかけているのです。納得できないという不満を表現しています。しかし次の問いは性質が異なります。なぜ、人間は怒るのか?どういう時に怒るのか?怒ることで何をしようとしているのか?これは客観的な人間科学です。この絵本は、「ぼく」による、探究の絵本です。ねぼうして、怒られる。ピーマンのこして、怒られる。きょうだいげんかして、怒られる。しゅくだいわすれて、怒られる。野球の試合に遅刻して、怒られる。なぜ、僕は、怒られるのだろうか?
 ここまでの前半は、自分自身の問いから、いったん冷静になって考えてみるところまでのシーンです。自分はよかれと思ってやっている。自分はそれが当然で、正当だとさえ思っている。そこに他人からクレームがついたら、頭に来る。私はそれはしたくない!やりたくないことを、なぜさせられなければならないのか?怒りと不満、不快、そして嫌悪感。あいつは許せない。そんな心境になります。多くの場合は、そこから次のように考えます。どうすれば怒られないですむか?怒られない方法について、考えます。そして怒られないということ=善い、という考えに至ります。それで善い存在になったと思い込むのです。怒りもしなければ、怒られもしないという、真っ白な人間になってしまうのです。実際には操作されたと言うべきかもしれません。自分は怒られない善い存在なのだというふうに理解してしまうと、次に怒られた時に、パニックになってしまいます。例えば就職して最初に怒られると、もう、いてもたってもいられなくなり、会社を辞めてしまうのです。なぜだ!僕は言われたことをやってきた。なのに、なぜ、あの人は怒るのか!ぼくが一生懸命にやっているのに。酷い!!!!じゃあ。もう、いい!やってられない!という具合で、目の前の叱ってくれた人を切り離してしまいます。おそらく、多くの場合は、8割くらいは、そうやって生きていくのだと思います。ごんたろうもそうです。この絵本はそんなふうにはなりません。
 後半は、もっと客観的にとらえることになります。よし!怒られることのない場所へ行ってみよう。誰もいない海の上、しかしそこはさびしい。「ぼく」はあらゆる場面を思い出します。けんちゃんは、ちょっとしたことで怒る。僕はちょっとぶつかっただけでは怒らないけど、げんこつで殴られたら怒る。おそらくここで「ぼく」は一つのことに気付きます。人によって違うというということ。程度の問題も、あるということです。みんながみんな、同じことで怒るわけではない。ということは、場合によっては、あるいは考え方によっては、「怒らない」ということも可能なのです。
 「ぼく」は、もう一つのことに気付きます。妹が僕の部屋を散らかしたままだと僕は怒る。お父さんが約束を破ったら僕は怒る。そうなのです。怒られることばかりに不満を漏らしていましたが、よく考えれば自分だって怒ったことがあるのです。自分の素直な感情を、もう一人の冷静な自分が観察しているのです。この「視点の移動」こそ、人間を成長させる最大のメンタリティだと思います。「ぼく」は気付いたのでしょう。怒るのは、「自分はこうありたい」「こうなってほしい」という強い気持ちの表れであるということ。誰だって生きているうちに、こうありたい、こうなってほしいという気持ちを持っています。それがうまくいかなくなった時に怒る。もちろん、「僕はこうありたい」というような個人的な願望が叶わずに怒ることもあるでしょうし、遅刻のように「みんなが守るべきルールを、誰かが破った」ということで怒ることもあるでしょう。
 いずれにしても、怒るのは自然なことです。ここまで探究できたということが、素晴らしいのですが、さらに「僕」の探究は進みます。それは、怒るということの結果は、それほどよいことではないということです。最後の文章です。「おこったあとって、 こころはどんより。 おこったからって きもちがすっきりするわけじゃない なるべく おこらないひとになりたいんだけどなあ」一見すると、わかりやすい、「あるある」絵本のようですが、実際には、哲学なのです。そんな素晴らしい絵本を子どもと読みながら、人生について考えてみませんか。
スポンサーサイト



Posted on 2013/02/11 Mon. 14:02 [edit]

category:   3) 人間の素直な感情

thread: 絵本 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://kazeandsoraand.blog.fc2.com/tb.php/142-1de5206e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

カテゴリ

最新記事

最新コメント

お客様

検索フォーム

リンク


▲Page top