石森章太郎『ロボット刑事』感想  




ベテランの芝刑事「芝やん」と、

精巧なロボット「K」とが特捜班を作るシーンからスタートします。


「芝やん」は、定年を間近に控えたベテラン刑事で、
自分の勘を頼りに幾多の事件を解決してきたような人物です。

学歴はそれほど高くなく、頑固で、それゆえ出世コースからも外れてしまっています。

若い刑事に対しては、根性がない、サラリーマン刑事だなどと批判的で、

コンピュータやデータや自動車などの文明の機器に頼るのが大嫌いでした。

そんな「芝やん」ですから、
最初からロボットと組んで仕事など、出来るはずもありません。

一方、
ロボットには、
分光器眼やうそ発見器をはじめとして様々な特殊な装置が備わっていて、

難事件でもすぐに解決してしまいます。

スーツとベレー帽の下には、鋼鉄のような鎧と無機質な鉄仮面。

会話もでき、繊細な精神を持っており、驚くほど人間的です。

二人のやりとり、このあたりの人間的な姿が、実によく描かれています。




ロボット刑事Kは、
「科学捜査用アンドロイドとして使って欲しい」という手紙とともに。

謎の女性から警視庁へ送られたものでした。

実際に、人間の仕業とは思えない奇妙で凶悪な難事件が多発していました。

そこで警視庁の上層部は、
送られてきたロボット刑事Kを使って、それら難事件を解決しようと考えたのです。

「人間の勘とロボットの電子頭脳で」等と言われても、

芝刑事には、すんなり受け入れられるはずもありませんでした。





芝は、妻に先立たれ、娘二人と生活しています。

ロボット刑事Kが、芝を家まで連れてきます。

娘が「お客さん?」「どうぞ、中へ」というと

芝は、火のごとく怒ります。

「そいつを家の中へ入れちゃ、いかん、入れるな! 家の中がけがれるからな!」

芝は、ロボット刑事Kのことを

「鉄クズと配線とゼンマイじかけのバケモノ」などと呼ぶのです。

冷蔵庫と一緒だなどといって服を脱ぐように指示したこともありました。




そんな関係で難事件の捜査にあたります。

二人の関係は若者と年配者の典型的な姿でもあります。

ワンシーンです。

芝が転んでしまうと、
Kは「だいじょうぶですか?気をつけてください」等と声をかけます。

芝「くそったれめ、さわるんじゃねえ、油でよごれる。」
 「きさまの世話になるほどまだおいぼれちゃ」

K「いそいでください」

芝「うるせえ!」


芝は、当然ながら自分が指示を出し、

若者はその後ろをついてくる。そんな関係をイメージしているのですが、

Kは、それが分かりません。

こうした年配者と若者とのぎこちない関係は、

現在のあらゆる場面でよく見られることだと思います。

若者は素直に優しくしようとしているだけなのに、

年配者にとってすればうっとおしくて仕方ないのです。





難事件を操作していると、

殺人事件の犯人がロボットだった、

ということが分かってきます。

マシンガンと自爆装置を備えた犬型のロボットと遭遇します。

どうやら後ろに大きな組織がある。

ロボットを使って、悪さを企む人々がいるということに、気付いていきます。


芝は、思うのです。


ロボット刑事Kを送りつけてきた謎の女性も、

難事件を起こしている巨大組織は、同じものではないか?


そういう思いを抱きながら、

ロボット刑事Kとともに難事件を解決していくのです。


事件を追うところには、必ず敵のロボットと遭遇します。

ロボット刑事Kは敵ロボットと一戦を交えます。

このあたりのスピード感と緊張感はとてもよく描かれています。


しだいに、

敵の組織がロボットレンタル株式会社(RRKK)であるということ。

その組織が悪事に対して
ロボットを貸し出していることなどが浮かび上がってきます。

また、

ロボット刑事Kの素性も分かってきます。

ロボット刑事Kには「おふくろさん」と呼ばれる存在がいるということ。

それはマザーと呼ばれ、海の中に潜む女神像型の巨大ロボットであるということ。

ひょっとしたらマザーとロボットレンタル株式会社が
どこかでつながっているのではないか。

K自身もそんなふうに疑ってきます。




Kは、芝刑事の家族の中に迎えられ、

娘二人は少しずつKのことを理解していきます。


姉「だんだん、
 ロボットだなどと思えなくなるんじゃないかしらって考えると、とてもこわいのよ」

妹「わたしは、ちょっぴりこわいけどKのこと、すきだなー」

そんな会話も聞こえてきます。

Kは、詩を書くなどして人間の気持ちを理解しようと努力します。




ワンシーンです。

朝です。

娘がカーテンを開け、布団の中の父(芝やん)を起こそうとします。

枕もとにはロボット関係の本が3冊開いた状態にしてあります。

それを見た娘はニッコリわらいます。

素敵なシーンです。




芝やんは、「あんなロボットと仕事をするのは嫌だ」と思いつつ、

「実際には悪いヤツではないな」「確かに能力は素晴らしいな」
という感覚もあります。

しだいに親しくなっていく気持ちもありながら、

「いやいや、俺はロボットを否定しているんだぞ!」という気持ち。

親しくなってしまえば、自分らしさを捨ててしまうことになります。

そこで、

「そうなんだ、Kは悪のRRKKから送られてきたスパイなんだ」ということにして、

「表向きは親しく接することにしよう。いつか絶対に化けの皮をはがしてやる」

ということにして、

自分の気持ちを落ち着かせようとしている。

実際には、Kのことを信頼し、

Kのことを理解しようとしているのです。







難事件を解決してきたKでしたが、

ある日

犯人の推理を間違えてしまいました。

Kは、かなり落ち込んでいます。

(そんなこともあります)

そんな時、芝やんは、

「それみたことか!やはりロボット刑事なんて信用できない!」

等とは言いません。


「人間の心というのは、
 機械的にははかれないほどに複雑でおそろしいものだってことさ!」

とつぶやきます。

芝やんは家に帰ると、娘たちにこんなことばを言います。

「Kはまだ帰っとらんのか」

「Kがかえってきたらな、すこしやさしいことばをかけてやってくれや」

それを背中で語るのです。

とてもいい、味のあるおやじです。





ロボットレンタル株式会社。

それは金を受け取って、ロボットを使い、人を殺す組織でした。

目の前の事件を解決するだけではダメです。

その組織の正体を暴き、その本部を叩かなければなりません。





後半。

ロボット刑事Kは、ひょんなことから盲目の女性、結城香織と出会います。

香織はKのことを人間、スポーツ選手と思い込み、好意をよせます。

そしてKも、香織に恋心を抱きます。

ロボットですから表情は全く変わりません。

にもかかわらず、仕草や雰囲気で、Kの心境はよく伝わります。




遂に、芝は、

ロボット研究の天才科学者、
霧島博士の長女玲子が「マザー」で、弟竜治が「RRKKのボス」
であることをつきとめます。

ロボット刑事Kと芝刑事は、RRKKのボス、霧島竜治のアジトを突き止め、

最後の決戦に臨みます。



無数の敵ロボットと戦いながら、Kのセリフが印象的です。

「ぼくは、これまで、できるだけ人間に近づこうと思っていた。

 だからできるだけ機械らしい戦いかたはしたくなかった。

 だが、もういいんだ。」


「たしかに人間は、機械よりはるかにすぐれた部分をもっている。

 でも、弱い部分も、そしてはるかに悪い部分もたくさんあることもわかったんだ。」


大量の弾丸が飛び交い、Kは、次々と敵ロボットを破壊していきます。


RRKKそれ自体には世界征服云々の理想はありません。

真の問題は、
ロボットを使って自分の利益のために誰かを殺そうとする「人間」の側にあるのです。

幾多の戦いの中でそれに気付いてきたのです。





セリフは続きます。

「ぼくは人間として生きることをやめた。

 機械として、機械の誇りをもって、

 機械らしく生きることにきめたんだ。」


Kの身体のあらゆる箇所が武器になっています。


「いままではいちばんあこがれていた、人間の持つ“感情”と戦うために」


そうです。

詩を書いて少しでも人間に近づこうとして生きてきました。

それと戦う。そんな決意です。

自分が作られたのはなぜか?




「精神があるゆえに、その“精神”が生み出す“悪”と戦うために」



ここでKは自分のアイデンティティを自覚します。

芝刑事はKのことを「鉄クズと配線とゼンマイじかけのバケモノ」と呼んでいました。

ひょっとしたら、正しかったのかもしれません。







最後の最後で、巨大マザーが登場、

霧島竜治のロボットとともに自爆してしまいます。

ここで漫画は終わります。


後日談とか、そういうのは一切ありません。





この漫画の素晴らしいところは、

芝刑事とその娘、ロボット刑事Kの関係が、少しずつ変わっていくところです。

その描写がとても人間的で素晴らしいと思います。

年配の方の気持ちがよく伝わってきます。

年配の方は、自分のやり方に誇りを持っています。

パソコンなんかは使いたくありません。

彼らからすれば若者は、
何も知らないくせにカッコだけつけている、というふうに見えるのでしょう。

「俺が教えてやる、いいか若造!」と言いたい気持ちになります。

しかし若者の側は、年配の方を尊敬してついていくということよりも、

自分の実力を発揮し、純粋に認めて欲しいと思うのです。

必要なものはパソコンであれ何だって使いたいのです。

こういうことって、多いですよね。


(ごんたろうは中年ですから、両方の気持ちが分かります。)


この作品でKは、なんとか人間のことを理解し、事件を解決し、

人々さらには芝刑事に感謝してもらいたい。

純粋な気持ちなのです。

Kの表情は、一見無表情なのだけれども、

ここではとても表情豊かな存在に見えてきます。




ロボット同士の戦いについても、

動きがしっかり描かれていて引き込まれます。

いわゆる刑事モノのドラマのような雰囲気もあります。

なぜ犯人はそのような犯罪に至ったのかについての理由も

しっかり描かれています。

悪は、人間らしさから生まれるのだなーって思います。

農村部の様子、都会のビル建設の様子、雪の降るシーン、雨のシーンなど、

(Kが満月に観賞するシーンも)

情景描写が優れているのも特徴です。




石森章太郎の作品の多くに、アイデンティティ喪失が描かれていますが、

この作品は、それが人間味あふれる形で表現されていると思います。



あらゆる面を見ても、


文句なしの名作です。

こんな重くて人間味あふれる映画のような漫画は、

最近の漫画で、ありますか?

殆どの漫画は青少年の気持ちばかりを追求していませんか?

一見すると悪の組織と正義の味方のように描いていますが、

似たりよったりの二つの団体の仲間割れみたいになっていませんか?




(朝日ソノラマ版 全2巻、1973年作品)

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Posted on 2013/01/13 Sun. 22:44 [edit]

category: 漫画

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