『わるいことがしたい』感想  

(作:沢木耕太郎、絵:ミスミヨシコ、講談社、2012年)子どもが悪いことをしたいという。母親が何をしたいの?と聞くと、散らかしたり、汚したりすることらしい。この子にとっての悪いこととは、禁止されていることを破ってみることだ。その目は猟奇的。ただ子どもの究極的な目的は破壊ではなく、自分がここに存在するということを示すことだ。規則が嫌というよりは、最初から規則が固定的だということが嫌なのである。大人が困惑するとかえって調子にのる。そんな時には、一度、壊してみてもよい。そんなに面白いものではない。なお本書で、親は子どもを褒めていないようだ。それゆえさらに悪さが続く。
 男の子が大きな声で叫ぶ。「わるいことがしたい!」お母さんが問いかける。「わるいことって、どんなこと?」すると男の子はトイレットペーパーを巻き散らかしながら「こんなこと」と言う。お母さんは「おもしろかった?」と問う。「もっと、わるいことがしたい!」男の子が言う。再びお母さんは「もっと、わるいことって、どんなこと?」と問う。すると男の子はおもちゃ箱をひっくりかえして、「こんなこと」という。スパゲッティをぐちゃぐちゃにして食べてみたり、風呂上りに裸のまま走ってみたり。するとお母さんは言う。「こんどは、もとに もどしてみようか」男の子はうんといって綺麗に掃除をする。
 この男の子の表情は印象的だ。何かに取りつかれたかのように、ほぼ無意識ではないかとさえ思われるほどに狂信的だ。これは素直な表情であろう。おそらくは、人間の根本的な欲望でもある。禁止されていることを破ってみたい。私たちの社会が大切にしていることを、一度全てひっくり返してみたくなる。そんな欲望だ。「はーい」と言って素直に聞く時期というのは、僅かな時期に限定される。多くの場合、子どもは表面上「はい」と言うが、それは別の理由で(例えば怖いから)従って見せているだけである。彼は納得していないのだ。子どもが考える「悪いこと」というのは、多くの場合、人を傷付けることではなく、人を悲しませることでもない。それは禁止されていることを敢えて破ってみせることである。その意味で、「悪いこと」とは、エネルギッシュなことなのである。
 禁止されていることを破壊する、そういう意味の悪さであれば、受け入れてあげてもよい。表向きは厳しく叱ったとしてもなお、心の底では、ニコニコ笑い、OKOKと認めてあげる。そのような受け入れる気持ちが必要だ。子どもの心の底まで冷たく厳しく麻痺させるのではなく、上から叩きながらも逃げ道を用意するようなやり方である。壊してみて気づくこともある。やってはいけないことをやってみた時、何かがふっきれる。子どもは、意外とたいしたことはない、ということに気付くであろう。とにかく母親が怖くて、ルールを守るだけであれば、そこから逸脱することが怖くて仕方なくなってしまう。なぜそのルールがあるのかを理解するのではなく、ルールを守ることそのものが重みを持ってしまう。何かに脅えながら生きていくことになる。破ってみると、意外とあっさりしていること、破った後もまた、平和な世界が続いていること、怒られたとしても、それほど深刻に困ることではないということ、それでいて、彼が困るからこういうルールを作ったのだという意味がわかるということ、それら全てが重要である。
 小さいころの「悪いこと」には、禁止されていることの破壊という意味がある。それは二つの方向へと発展していく。一つは、壁に挑戦するという「楽しさ」に気づくという方向性である。やってはいけないこと、誰も出来ないこと、難しいことに挑戦していき、不可能を可能にしていく。この方向に進む者は健全である。もう一つは、誰かが傷付くということに楽しみを見出す方向性である。誰かが、まっすぐに歩いているということを壊そうとする。誰かが、楽しそうにしているのを驚かせて困惑させようとする。この方向に進む者は意地悪であり、残酷である。
 どのようにして、前者と後者で分かれていくか?悪いこととは何か?この絵本は、片付け遊びを楽しめるという点では、おそらく前者である。その一方、この絵本は、最後のページに、お母さんにイタズラをすることが示唆されている。ここには後者の姿も読み取れる。
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Posted on 2012/12/18 Tue. 22:04 [edit]

category:   6) 子どもの悪さ

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