『しげちゃん』感想  

(作:室井滋、絵:長谷川義史、金の星社、2011年)子どもは自分の存在をどのように、どこに位置付けるかをよく悩む。今の置かれた位置が嫌になり否定してみたくなるという気持ちもわかる。一度否定し、心から切り離した後でこそ、改めてその良さを自覚できる。そのようにして誇りやアイデンティティをつかんでいく。そんな成長。

 極めて珍しい名前、ビックリするような変わった名前のことをキラキラネームとかDQNネームなどと呼ぶことがある。私は、子どもの名前というのは、分かりやすく親しみやすく、世の中の美しいものや素晴らしいものを、そのまま持ってくればよいと思う。親しみやすさよりも深い意味を重視してしまうと、子どもは重荷に感じてしまう。親しみやすさよりもカッコよさや目立つことを重視してしまうと、これもまた子どもが重荷に感じてしまう。赤ちゃんにかわいいからといってかわいい名前を付けると大人になってから困ってしまう。かといって大人になった時のことを考えて、先回りして意味ある言葉を与えようとする。それもまた困ってしまう原因になるかもしれない。そのあたりがジレンマになってしまうかもしれません。いっそのこと、戦国時代のように幼少期の名前と成人後の名前を切り替える方がよいかもしれない。
 本書の主人公は女の子なのに「しげる」という名前。女優の室井滋の実体験をもとに作られた絵本だ。小学1年生のしげちゃん。入学式に教室に入ると自分の名札がピンクではなく、水色だった。先生が男の子と間違えてしまったのだ。男の子みたいな名前がゆえに、しげちゃんはいやな目にしょっちゅうあう。友達が出来なくなるのではないか。いじめられるのではないか。しげちゃんは心配になる。そしてお母さんに言う。「ねぇ、お母さん、わたし、じぶんの 名前、キライ! もっと かわいい 名前に かえてよ」お母さんは名前を変えることは出来ないと言う。べそをかいてしまったしげちゃんを、お母さんはやさしくだっこする。「お父さんもお母さんも、子どもが一番しあわせになれそうな名前を考えるものなのよ!」そして、はじめて知った話。しげちゃんよりも先に男の赤ちゃんがいたのです。体が弱くてすぐになくなってしまったという。「だから『しげる』っていう名前にはお兄ちゃんのぶんまで生きてほしいっていうねがいが こめられているのよ」滋養の「滋」その話をきいたしげちゃんは「ちょっぴり『しげる』が いやで なくなった。」といって明るい表情で学校へ行く。
 さて。最近の親の名前の付け方には異議を感じることが多いが、いつまでも文句を言うつもりはない。一度付けてしまった名前はもはやその子の人格そのものであるから、誰もその名を否定すべきではない。親の常識を疑うことはあるが、その子を責めるべきではない。名前の付け方がおかしいと思うことがあるが、誰もそれに訂正を求めることは出来ない。生んだ人、育てる人だけが決定できる特権である。
 子どもにとって名前とはどういう意味を持つのか?名前を疑うということは、自分の出自を疑うということである。問いかけることはとても大切なことだ。自分がどのようにして生まれてここまで生きてきたのか?それらについての問いが、名前に対する疑問となる。自分という存在がしっかり意識してくると、はて、自分はなぜこういう名前なのかな?と思う。あるいは自分が産まれる前の世界にも目が向いているということなのかもしれない。命名した大人は、そしてその問いに対して、適切に答えることができるということが大切であろう。ウソでもいいので、「素晴らしい人間になって欲しいと思った」「健康で幸せになって欲しいと思った」というような、ちょっとだけ重いメッセージがあるとよい。「呼びやすい」とか「分かりやすい」とか、「当時の好きなアニメのキャラだった」とか、意味が弱いということが分かると子どもはショックだ。
 良い名前を付ければ良い人間になるというほど簡単なものではない。3番目だから「三郎」というような軽い意味だからといって、その子が曲がった人間になるというわけでもない。名前にコンプレックスを持っているからといって、その子の人生が曲がってしまうというわけでもない。コンプレックスを乗り越えて、あるいは名前のことはあまり気にしないようにして生きることが出来れば素晴らしいことである。そういう意味で、この絵本のやりとりは素晴らしいと思う。また、この絵本のあたたかな絵も素晴らしい。
 私が感じたのは、この絵本。当事者の視点ではなく、今現在は大人になっている室井滋の視点から描かれているように思えた。遥か昔の記憶をたどっているために、映像がふんわりしている。ところで、真に重要なことは、仲間うちで通用する名前(あだ名)の方だ。時折、あだ名で呼んでばかりいると本名が分からなくなることもある。その場の人間関係の間でどのように呼ばれるかが大切である。私たちは、コミュニティを移動するたびに、新しい名前を付けてもらうチャンスがある。年をとると、今度は肩書きで呼ばれることが多くなり、自分が誰なのか分からなくなってしまう。死んでしまったら難しい漢字が付けられてしまう。私は、誰?
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Posted on 2012/11/17 Sat. 23:03 [edit]

category:   2) 偉大なる母の力

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