石森章太郎『人造人間キカイダー』感想  




ロボット工学の研究者たちが人工知能を搭載したロボットを作るようになりました。

人間の指示に従うロボットを作るべきか、

それとも自分で判断できるロボットを作るべきか、

研究者によって分かれるところです。

 ギル博士は、指示に従うだけのロボット「ダークロボット」を作り、世界制服をたくらみます。一方、光明寺博士は、ロボットに良心回路を取り付け、悪い命令には従わないようにしたのです。光明寺博士が作ったロボットが、試作ロボットであるキカイダー・ゼロワン(変身前は、イチロー)キカイダー(変身前は、ジロー)でした。イチローには良心回路はなく、いくぶん単純に出来ています。ジローには良心回路が取り付けられているのですが、それは完成されておらず、きちんと作動しているわけではありませんでした。ジローは、繊細な心を持ちながら、悩み続けます。一方、イチローは、「深く考えずに単純な方がいい時もある」というようなことをジローに語ります。そのあたりのやりとりは、よく表現されています。
 ギル博士は、服従回路を持つダークロボットを作り、良心回路を埋め込まれたキカイダーを破壊しようとします。ギル博士にとっては、命令に従わないロボットという存在が脅威だったのです。ギル博士は、特殊な笛でロボットたちを操るのですが、その笛によってジローは一時的に狂ってしまう。それは、理性を失う状態、敵と味方も分からなくなる状態です。狂った状態の時には、恋心を寄せるミツコに抱きついたこともありました。とにかくジローの心は繊細です。自分を襲ってくる敵ロボットを「兄弟」だとして説得しようとしたり、ミツコへの恋心がゆえに、キカイダーへ変身したくないと思うこともありました。障害のある少年と出会った時には、まるで学校の先生のようでした。実に人間的な弱さでした。男の子にありがちな「強くなりたいけど怖い」という弱さではありません。友達が欲しい、仲良くしたい、優しくしたい、といった感覚なのです。敵に対しても「ぼくはうそがつけない」と言ってみたり、一度信頼してしまった仲間が裏切ったことを酷く悲しんだりします。ある日、ジローは、「自分の良心回路が、不完全な状態であっても、いいんだ」等と思うようになります。良心回路を完成させるためには、自分の努力で人間的な成長によってそれを成し遂げたいと思ったのです。とにかくジローは優しく、心は弱いのです。またそんな姿に周囲の女性たちは惚れていきます。
 ギル博士は、キカイダーたちとの戦いに敗れますが、自らの脳を、ハカイダーというロボットに取り付け、ハカイダーとして生まれ変わり、再び世界制服を目指すのです。ハカイダー(ギル博士)は、島を一瞬で消しさるほどの破壊力がある最終兵器、ジャイアントデビルを開発しようとします。ギル博士は、もしもの時のために、自分の双子の子どもの身体にその設計図を記録させていました。財力や部下のいない状態では、一人で作ることは困難ですが、いずれジャイアントデビルを作り、世界を制服することをたくらんでいたのです。
 そんな時、悪の組織「シャドウ」が登場します。シャドウはギル博士(ハカイダー)が考案した最終兵器を奪い(横取りし)、それで、世界制服を目指そうとするのです。キカイダーたちは、シャドウとハカイダーの戦いに巻き込まれていきます。また、シャドウ内部の反乱分子・ビジンダーが登場し、ジロー製作の新ロボ、ダブルオーが登場します。作品の後半は、微妙な駆け引きや戦闘が続きます。繊細な回路を持つビジンダーは、相手ロボットの信号を操作して狂わせる力を持っています。狂うというよりは、ビジンダーのことが好きになってしまう状態、骨抜き状態です。イチローは、狂ってしまう。ビジンダーは、イチローの心を操作する目的でやってきたのですが、「同調」してしまい、遂に恋心を持ってしまいます。行動を共にしようとします。このあたりは若干、少女漫画のようです。イチローやビジンダーの表情の描き方も、少女漫画のようです。服装もオシャレです。物語の最後です。ハカイダー(ギル博士)は、遂に、ジャイアントデビルを完成させました。キカイダー、ビジンダー、ゼロワン、ダブルオーは、なんとか野望を阻止しようとハカイダーの潜む地点を目指します。すぐに捕まってしまいます。そして、ハカイダーは、キカイダー、ゼロワン、ダブルオー、ビジンダーに、服従回路を組み込んでしまいます。キカイダーの良心回路については、それがどこにあるか分からずに、良心回路はそのままにしてありました。ギル博士(ハカイダー)は、服従回路が強力に作動すると思っていたのです。ジロー・キカイダーは、目が覚めて状況が分かるとすぐに、ゼロワンやビジンダーを殺し、ハカイダーをも殺そうとします!なぜでしょう。服従回路よりも良心回路が強かった、のではありません。逆です。服従回路が組み込まれたため、仲間を殺すことも出来たし、強くなった。そんなものに負けちゃいけないんだという強い心それがイチローを強くしたのです。ハカイダーを破壊し、そしてジャイアントデビルをも破壊し、そして静かに去るのでした。物語はここまで、です。
 この作品は、長編ですから、全ての物語を説明すると複雑になってしまいます。冒頭と最後に『ピノキオ』が描かれますが、それはあまり重要だとは思えません。重要なポイントは何でしょうか?ここに登場するロボットたちは、ある程度は自分で考えることができます。ゼロワンのように、良心回路がなくとも、服従回路がなくとも、一応、通常の会話や思考は成立しています。良心回路とは、何でしょうか?善や正しい行為を進んで行うということではありません。全体の文脈からいっても道徳性のようなものではありません。この作品で描かれている良心回路とは、冷静になって周りの様子をよく知ること。どういうふうにすれば良い生き方になるかを自分で考えるということ、です。「良心」というよりはむしろ「理性」です。ギルの笛でジローの理性は作動しなくなってしまいます。
 では、服従回路とは何でしょうか?ギル博士のロボットは服従回路を備えています。ロボットというのは人間の命令に従うということ、人間の手段になるということです。人間の命令や指示に従うというのが、基本的な定義なのです。基本的なロボットの知能に対して服従回路をプラスすれば、ダークロボットのようになるでしょう。しかし、キカイダー・ジローの中に服従回路を埋め込んでしまった時、違った作動の仕方をしたのです。なぜでしょうか?不安定で不完全な良心回路と、強力な服従回路二つが合わさった時に何が起こったのでしょうか?おそらく、命令に従うだけ、指示の通りに動くだけ、というのは、それはそれで「強さ」なのです。あらゆる方面のことを思いめぐらし、全ての人々の心境に共感してしまえば、力が出せない。目標が一点だけにあり、そこに全てのエネルギーを振り向けるからこそ、圧倒的なパワーが出てくるのです。ジローの思考には、他者のことを気遣い、社会のことを気遣い、みんなが幸せになればいいという公平さという思考、理性が備わっていました。そこに服従回路が入ると、目的のためには、手段を選ばない、という思考として定着したのでしょう。地球の全ての人々の平和のためという目的を設定し、その目的のために、仲間だって殺すことができる、迷いはありません。速い決断。ジローは、そんな思考を獲得したのだと思います。それが出来るようになったのは、ジローが不完全な良心回路を修理しなくてもいいと判断し、自分の力(通常の人口知能だけ)で良心回路を完成に近づけようとしてきたからです。ジローは、服従回路の挿入というプロセスを通し、自らの良心回路を自分の力で完成させたのだと思います。この作品は、人間の心の状態を分けてとらえることで、強さの意味を問いかけるという作品だったと思います。若干ヒーローものの要素は減ってしまいましたが、人間とは何かについての問いかけは十分に含まれていて、素晴らしい作品になっています。石森章太郎の深い人間ドラマを堪能して欲しいと思います。
 ちなみに、テレビ版は全く違った方向へ進んでしまったようです。良心回路とは、ギルを倒すこと。悪魔回路とは、キカイダーを倒すこと。そういう運命のようなものと位置付けられているようです。まるで武蔵と小次郎のように、キカイダーとハカイダーとの死闘を中心として話が進むようです。これはこれでまた面白いと思います。(参考ブログ:逆襲のジャミラ)

(1972年、秋田書店)
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Posted on 2012/10/07 Sun. 13:30 [edit]

category: 漫画

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