『モモ』感想  

 ミヒャエル・エンデの作品『モモ』をもとにした映画です。いつものとおり思い出しながら書きますので、間違いがあったらご指摘ください。古代円形劇場の掃除夫ベッポに発見された浮浪少女モモ。施設での生活がいやになって抜け出したのかもしれません。モモは、勇気と優しさを持ち、村の人気者でした。モモの能力? それは相手の言うことをじっくり聞くということでした。村の男たちはケンカをしたり、仲直りをしたり、幸せな日々を送っていました。
 そこへ、タバコと灰につつまれた時間貯蓄銀行の男たちが忍び寄ってきます。不気味な男たちは、「君の時間の使い方は無駄だ」という。どれだけ無駄があるのだ!?その無駄な時間をわれわれ時間貯蓄銀行に預けたまえ!等というのです。灰色の男たちは、人々が節約した時間を貯蓄し、金庫に閉じ込めることで生きていけるのです。彼らは、効率よくお金を稼ぐことを第一に掲げるのです。しだいに、村の人々は「ゆとり」や「遊び」を失っていきます。芸能界デビューする人、スーパーマーケットのレジ打ちをする人、映画の中でもその表情の変化は良く描かれています。自由な遊びを謳歌している子どもたちからすれば、大人たちはみんな時間を貯蓄しているように見えるでしょう。わたしたちの資本主義社会において、時間は金です。しかし時間を節約すればするほど、私たちの生活は貧しくなっていく。無駄と思われている時間、休み時間などは、本来はとても大切な時間です。ちょっとした時間に同僚と無駄話をするというのも、これもまた大切な時間です。ゆったりした時間、無駄と思われているような会話やケンカ、迷いや失敗などの時間もまた、大切な時間なのです。
 灰色の男たちは、人々の心の中の「時間の花」を奪い取り、それを冷凍させて金庫に保管しておき、それを葉巻にして吸う。人々が時間を節約すればするほど、灰色の男たちは長生きをする。人々が時間をゆったり過ごせば、灰色の男たちは生きていけない。時間貯蓄銀行の灰色の男たちにとって、最大の脅威は、モモのような時間を節約しない人間だったのです。高価な人形をちらつかせてモモの気持ちをひこうとやってきた灰色の男に対して、モモは優しさを振り向けます。彼ら灰色の男たちは、そのような人間的なやりとりが最も嫌いでした。灰色の男たちは大勢でモモを探し出して始末しようとします。モモに危機が迫ります。亀のカシオペイヤの導きで、モモは、時間の国のマイスター・ホラと会います。
 モモとマイスター・ホラは、人々の時間を止めてしまえば、灰色の男たちが時間を吸えなくなってしまうと考えました。それは名案です!時間の国のマイスター・ホラは、時間をとめます。まだまだ貯蓄されていた時間の花があります。モモは、なんとか時間貯蓄銀行に入り込み、金庫の扉を閉めることに成功しました。灰色の男たちは葉巻も「時間の花」も手にすることができなくなり、ついには一人、また一人と息絶えていきます。モモは、金庫に収めてあった人々の「時間の花」を解放し、人々の時間を取り戻す。再び村に平和が戻ったのです。
 私たちの現代社会は、効率化と生産性が重視される社会です。時間が無駄だとか、もったいない、等という言い方をします。例えば電車に乗っている時間は無駄です。だからPCを開いたり、英会話の勉強をしたりします。働いている時間は、出来るだけ少なく、遊び時間は多く、そして何もしていない時間は全て無駄である。そんな気持ちになってしまうのです。問題は、だから現代社会が全てダメだというのではなく、「そのようになっているのはなぜか?」ということです。エンデは、人々をこのように振る舞わせるものとして「お金」に目を付けました。
 この児童文学は、子どもを感動させるという目的のほかに、私たちの現代社会の諸問題の根本的なメカニズムとしてお金のシステムを批判するという大きなねらいがあったのです。『エンデの遺言』で記述されていることをふまえて、私なりに整理してみます。現在の貨幣システムとは、銀行が作った紙幣(紙切れ)を借りて、それに利子を付けて返すという形になっています。会社は、とにかく事業をおこして、利益を上げなければなりません。会社は、可能な限り規模を拡大し、労働者を安い賃金で雇い、高い質の商品を作り、利益を上げなければなりません。「灰色の男たちは、人々から時間を奪う」ということは、「人々は、借りたお金を、利子をつけて返すために、ひたすら働く」ということです。全ての価値はお金を稼ぐことだけになってしまいます。このような貨幣システムの中では、たくさんの金を持っている人間は、これから利益を生みそうな、発展していきそうな場所や会社へ行き、お金を貸します。「このお金で会社をおこしてごらん」そこで得た利益から配当を得ます。お金を右から左へと流すだけで、手元にお金が入ってくるのです。
 灰色の男たちとは、現代社会でいえば投資家、金融資本を持つ団体のことでしょう。彼らは私たちに言います。「無駄な時間はいっぱいある。」「無駄を削って仕事をしろ。たくさん利益を得れば豊かになれるはずだ。」もし、全く違う貨幣システムに変えることができれば、灰色の男たちは消えてしまうでしょう。エンデの作品『モモ』は、それを描いているのです。お金というのは、人間が持つ人間的な富を、人間から切り離せるようにしたものです。私たちは、本来、自分で作ったもの、友人からプレゼントされたものなど富に対して愛着や人間味を感じています。庭でとれた新鮮な野菜、それが余れば近所に配ったりします。先輩からおごってもらったり、後輩をおごったりします。本来、人間的なものなのです。それが紙幣と交換できるということになると、かかわりや人間関係は、全てわずらわしいものになってしまいます。エンデは現在の貨幣システムを改めて、別のシステムを考案していくことを提案しているのです。エンデは、現代社会を、文明も技術も全てひっくるめて否定しているわけではありません。
 さて、そのような深いメッセージは大切ですが、それ以外にもこの映画を見れば多くの興味深いことが描かれています。灰色の男たちが追いかけてくる。急いで逃げなければ!と思っていると、そこにカメ?です。とにかくびゅんびゅん急いでいる時には、止まっているものが見えなくなってしまう。それを言っているのかもしれません。マイスターホラのもとを目指して歩こうとするのですが、前に進もうとしても進めない。ならば、後ろを向いて進めば良い。私たちの常識や思い込みを外れてちょっとひっくり返してみれば、物事はうまくいく。そんなことを描いています。映画の前半で豊かに会話をしていた人々が、後半ではどんどん冷たい人間になっていきます。そのあたりの描き方も素晴らしい。灰色の男たちの不気味な表情もまた、とても良く表現できていると思います。一切CGを使用していないあたりの素敵です。(年代から言ってCGを使用していないのは、当然ですが)私はCGを多用することについては懐疑的です。本当にCGであるかどうか分からないレベルのもの(例えば遠くの風景など)は良いのですが、人物とか、動物とか、そういうのは、やはり実物が良い。人物は生身の人間がよい。
 映画『モモ』は、とてもよい。灰色の男は普通の役者が顔を白く塗っているだけですし、時間が止まった瞬間は、人間がじーっと静止しているだけなのです。それは、よく見れば、分かることですし、「雑」なのかもしれません。しかし大切なことは、人間が力を合わせて映画を作っているということです。その臨場感、劇場性が大切なのです。ですからそれを雑だからという理由でCGを使って綺麗に見せたとしても、今度はCGアニメと同じ部類に入ってしまうのです。
 ファンタジーとは何か?最近のファンタジーは魔法と竜が出てくればOKということになっています。しかし『ハリーポッター』も『ロードオブザリング』も、なんだかドンパチやっているだけに見えます。「謎」がたくさん出てきて、観客をひきつけようと努力するのは分かるのですが、一度「謎」が解けてしまえば、魅力は半減します。設定ばかりが複雑で、確かに壮大な歴史物語のようにはなっていますが、肝心のことが忘れられています。ファンタジーとは、私たちの素直な心のうちを、大きな世界に投影するものだと思います。心のうちとは、複雑な葛藤の連続です。例えば、見栄を張ったり、カッコつけたり、相手を信用できなかったり、信用してみたり、怖がったり、不気味さに驚いたり、思いを伝えられなかったり、そういう心の葛藤です。それが世界に投影されるように描いているのは、同じくエンデの『ネバー・エンディング・ストーリー』や『ラビリンス』等があります。最近のファンタジー映画は、心の中については薄っぺらに描き、外の世界観については詳細に描いています。国家と国家の戦争を描いているのと変わりません。ミサイルが魔法、戦車が竜に置き換わっただけです。アクション、スリルとサスペンス、ロマンス、それらを詰め込めば商業的にはOKなのでしょうが、これではファンタジーと呼べません。とにかく、『モモ』のような名作映画が絶版状態で、中古でもプレミアがついて高価だという、そういう状況をなんとかしましょう。テレビで放映すれば、一気に人気が出ると思いますが。(1986年、ドイツ公開)
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Posted on 2012/10/03 Wed. 21:40 [edit]

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